Night lover番外編(夜霧×久遠①)

「そこらへんでやめとかないと、そいつ死んじゃうよ?」


真夜中の路地の一角で理性が飛んでいた久遠になんの躊躇いもなく話しかけてきた男。


ハニーブラウンの髪に中性的な顔立ちで、こんな現場を見ながらにこやかな笑みを浮かべていた。


ヘーゼルの眼差しは恐怖なんてものはなく面白いものでも見つけたような視線である。


今しがた殴っていた相手はすでに気を失っており、久遠は返り血で酷い格好だ。


普通こんな時間帯にタガが外れているとわかるほど殴っている相手を見たら通報するか関わりたくなくて逃げだすのが普通だろう。


「君は、誰かな?止めてくれてありがとうが先かな?」


「俺は夜霧っていうよ。どういたしまして?」


「俺は久遠。……いや、そんなことよりよく話しかけてきたね。」


「だって全然満足できないって顔でひたすら殴る奴がいたんだもん。面白そうじゃん。」


「面白い……?何がどう面白いになるのかわからないんだけど?」


「取り敢えずここから離れない?その格好もヤバいしさ。俺ん家おいでよ。」


夜霧は初対面で久遠を家に招くほど不用心な奴だった。


人を殺しかけるほど殴っていたやつを『面白そう』なんて理由で近づいてくる変な奴とも取れる。


ただ久遠も自分の格好が酷いことは理解していたし、このまま帰ったらまた桂月を心配させてしまうと思うと夜霧の誘いに乗ったのだ。


「シャワー使って。制服は洗濯しとくから俺の服で一旦着替えて。多分背丈似てるからサイズは合うと思う。」


「うん、ありがとう。ていうか両親は?」


「居ないよ。どう見ても人の気配しないでしょ?」


「高校生が一人暮らし?」


マンションの一室に案内された久遠だったがまだ未成年なのに部屋が借りれるわけがない。


だが両親は不在だというのだ。


単身赴任でもしているのか、それとも別の理由があるのかと疑った久遠である。


返り血を浴びた男を連れ込んでいるのだ。


その時点でどうかしているのに、夜霧という存在を丸っと信用することはできない。


そんな久遠の視線で何を読み取ったのか、夜霧はフッと笑っていた。


「本当だよ、両親はいない。捨てられたんだ。それで今の育ての親みたいな人に買われたんだ。」


「育ての親ってのはどこいるの?」


「仕事だよ。フラッと帰って来る日もあるけどほとんど帰ってくることないから安心して。というかこの部屋には先ず来ないから。」


「この部屋?」


「いくつか部屋を持っていてね。ここは俺の一人暮らし用の部屋だからわざわざ来たりしないんだ。出くわすと色々面倒だから。」


「それはどういう意味なんだ?」


「聞きたいことは後にして先にシャワー浴びれば?」


「………、」


「思うところがあるのはわかるよ。疑うのも当然だ。こんな時間に同じ制服着てるヤバそうな奴を部屋に入れた俺がどれだけ危険な存在なのかを測りあぐねてるんだろう?」


「わかっててなんで、」


「言ったろう?久しぶりに面白そうなものを見つけたんだ。人を殺してみたくて仕方ないんでしょう?そういう人間には初めて会うからさ。」


「……自分が殺されるとは思ってないんだね。」


「そうでもない、ちゃんとその可能性は考えてある。でもきっと、君はまだ一線を超えない。いや、越えられないのかな?」


にこやかに相手の心理を読み取ってくるヘーゼルの眼差しに久遠は黙り込んでいた。


口にしなくても理解されるような感覚。


いや、全て見透かされているだけだ。


そうだとしても言葉にするより先に当てられると怖さもあるが、単純に興味もあった。


「わかった、取り敢えずシャワーを借りるとしよう。話しはそれからだ。」


「うん、コーヒーでも淹れておくよ。」


不思議な出会いだった。


お互いに同じ高校の制服を着ているのに見かけない顔同士。


久遠は単位を落とさない程度のサボりはしていたが基本的に高校生活というものもきちんとこなしていた。


であれば教室が違うだけか、それとも学年が違うのか。


いいや、そんなことより久遠の素を見ておきながら面白そうだと言って話しかけてくる奴なんて絶対おかしい。


さまざまな疑問は浮上するが回答者が居ないので、久遠はさっさとシャワーを済ませて殺風景なリビングに姿を現した。


コーヒーのいい香りがする部屋は男子高校生の一人暮らしには見えないほど片付けられている。


少しは生活感があったり散らかっていてもいいはずだ。


実際、桂月の部屋は物が散らかっている。


久遠がそれらをこまめに片付けるくらいだ。


「なんにもないね。」


「まあ、寝に帰るだけの部屋だしね。」


「同じ高校だなんて知らなかった。」


「俺も〜。1年生?」


「いや、俺は3年だけど。なんだ年下なの?」


「みたいだねえ〜。そりゃ顔も名前も知らないわけだ。階数から違う。」


「そうだね。」


歳がわかっても敬語を使う気はないらしい夜霧のにこやかな受け答えに、久遠もその程度で不快さを感じることはなかった。


改めて夜霧を見るとピアスを複数付けており、髪はサラサラだ。


大人びた眼差しをするのに、笑顔が甘く懐っこい。


だからこそアンバランスに感じるのかもしれない。


「ジッと見ても何も出ないよ?聞きたいことからとっとと聞けば?」


「………、」


「聞きたいことがまとまらない?まあ仕方ないよねえ。初対面で血塗れの殺人鬼予備軍を部屋に入れる奴なんて信用ならないだろうし。」


「俺はまだ何も言ってないんだが?」


「目が語ってるじゃん。言葉で聞くより人間は顔や仕草の方が正直だよ。」


「それは観察力があるだけでは済まない能力だ。特殊な訓練でも受けているとか?」


「ええ〜、うーん……まあそうだね。元々備わっていた才能ではあるけど特訓も受けてるよ。」


「君は何者なんだ?どうして俺を怖がらないんだろう?あんな真夜中に何してたんだ。」


「急に質問がいっぱいだな。えーと、何者って聞かれても普通の高校生だよ。君と同じで人間らしく振る舞ってるだけ。」


「夜霧もサイコパスなの?」


「いや、違うよ。俺は表と裏で生きられるよう訓練されてんの。犯罪者になるか、一般人のまま生活するか選べるように。」


「なんでそんなことを?」


「育ての親が犯罪者だから。」


「サラッととんでもないこと言うね夜霧は。」


「あははっ、でも驚いてないじゃん。むしろ好奇心で目が輝いてるじゃん。」


「それはまあ、興味のあることなら誰でもそうなるだろう。」


「俺の生い立ちは誰にも言ったことないんだ。ていうか言えないし、言っても信じてもらえるような内容でもないからね。」


「なんで俺に話したんだよ。」


「そうだなあ、俺と同じで人としての一線を超えるか否かを見定めてるからかなあ?」


「………俺は自分のことを話した覚えはないのになんでそう、俺のことを言い当てるんだ?すごいな夜霧。」


「ある程度どんな人間かは見てたらわかるもんじゃないの?」


「わかるわけないだろう。メンタリストやプロファイラーでもない限りそんなことわかってたまるか。」


「ふうん?」


「ふうんって…。」


「あとはなんだっけ?どうして怖がらないか、だったかな?怖くないから怖がらないに決まってるじゃん。」


「俺がサイコパスだとわかって話しかけたと?」


「そうだよ。なんか変なことある?」


「全部変だと思うよ。常識というものに当てはめるとね。」


「ふむ、常識で言うとサイコパスは猟奇殺人のイメージを持たれているということかな?でも実際、サイコパスなんて医者や弁護士なんかにも多い。全員が殺人鬼予備軍ってわけではないでしょ。」


「そういう正しい知識を持っている人間がどれほどいるか…。」


「まあもっと言うなら戦闘訓練は受けているからね。自己防衛くらいは出来るんだよ。」


「なるほど。じゃあ今度手合わせしたい。」


「嫌だね。俺は基本的に頭脳派なの。そういう乱暴なことをしなくても相手が俺の欲しいものを持ってきてくれるようにコントロールするほうが楽でしょ。」


「恐ろしい奴だな。そんなことをラクに出来る方がおかしい。」


「人には向き不向きがあるんだよ。俺にとっては簡単なことだ。けれど久遠のように暴力を行使することはあまり向いてない。」


「俺も向いているわけではない。暴力はあくまで欲求の解消に、」


「ああ、そうだね。言い方を間違えたよ。久遠のように物理的な人殺しは得意じゃないんだ。」


「ストレートすぎる。それに俺はまだ殺してない。」


「まだって言ってるあたり、欲求の解消は追いついてないようだね。」


「なんで笑えるんだ。俺に獲物にされるとは思わないわけ?」


「思わないね。言ったでしょ?俺は頭脳派なんだって。だから俺の武器は言葉なんだ。久遠が物理的に殺しに来るなら俺は精神的に殺しにいくタイプなわけ。」


「だから何?俺に獲物にされない理由になってない。」


淡々と真夜中にされる会話としてはだいぶ物騒だった。


けれど出会うべくして出会った二人とも言えるだろう。


だって、


「俺に手を出す前に、久遠が未だに殺人鬼に堕ちない理由がなんなのか考えて行動してね?」


「……………。」


夜霧もまた、躊躇いもなく人を壊すことができる人間だから。


にっこりとただ言葉を落とすだけの夜霧に、けれど久遠は咄嗟に思い浮かんだ桂月の顔と同時に息を呑む。


一応牽制も含めて夜霧に対し、獲物という言い方を使って脅しをかけてみたのだが、


夜霧はたった一言で久遠が絶対実行しないと理解している言葉を落とすのだ。


言葉が武器とはよく言ったものだ。


動かず、騒がず、ただ口を動かすだけで人を思い通りにできる男。


末恐ろしいと思うのに、久遠は少しの興奮と好奇心が抑えきれていなかった。


「どうして俺が一線を超えない理由があるとわかったんだ?」


「あからさまな脅しだったからもしかしてと思ってね。俺をどうにかする気なら、久遠みたいな実行力の高いタイプはいちいち会話なんかしない。でも会話を重ねてくるってことは今の自分をまだ捨てる気はないってことだろう?」


「素晴らしい能力だが、それ故に恐ろしいな。日常生活に支障はないのか?見るだけでわかってしまうというのは大変そうだが?」


「慣れてるからねえ〜。別に大変だと思ったことはないよ。退屈だとは思うけど。」


「ふむ、退屈か。しっくりくるな。俺も同じ理由だ。退屈で仕方ない。」


刺激を欲している。


けれど二人が求める刺激は一般的な男子高校生が持て余す情欲だったり悪ぶりたいだけの感情ではない。


「あとの質問、なんだったっけ?」


「こんな時間にあんなところで何してたんだ?」


「ああ、フラフラしてただけだよ。退屈だったからね。面白いことないかな〜って。そしたら久遠を見つけたんだ。」


「俺は別に面白い人間ではないが?」


「面白いよ。他人に共感できない殺人鬼予備軍のくせに、自分の欲求に忠実に従わず理性的で人間らしく振る舞っている。人間だれだって欲を我慢するというのは並大抵の精神力でできる事ではない。人は楽をしようとする生き物だからね。」


「何が言いたい?」


「そこまで自分を制御しているのに、血生臭い世界への憧れが滲んでいる。チグハグなんだ。恐ろしいことを夢みているのに、恐ろしい事を恐れている。悪人になりきれてない悪人の卵って感じかな?どう育てれば面白くなるかなって俺はワクワクしてる。」


「………夜霧に育てられるつもりはないんだけど?」


「大丈夫、仲良くしよう。悪いようにはしないから。」


「俺は初めて他人に対して恐ろしいという感情を持ったよ。」


「初めて持つ感情の名前が明確にわかるということは初めてではないと思うんだけど?」


「なるほど。ならば同族意識だろうか?夜霧は俺と同等か、それ以上の怪物だろ。」


「そうかもね。でも安心してよ。俺は何者にもなる気はないんだ。というか、なにになりたいかわかってないだけなんだけどね。生きる理由も死ぬ理由もないから人としての一線も越えてないだけ。」


「俺も似たようなものだよ。殺人への渇望はあるが、殺人鬼に身を落とす理由がない。欲望だけで堕ちてしまうと今はまだ後悔しそうで抗ってしまう。難儀なものだね、怪物に生まれると。」


二人は初対面だったというのに、ある意味意気投合していた。


「この部屋の合鍵あげる。使いたい時に使っていいよ。」


「なんで?」


「必要でしょ?血を流せる場所。」


「そうだね。ありがたく使わせてもらうよ。」


にこやかな夜霧だが、そのヘーゼルの眼差しが本当の意味で笑っていることはない。


それは久遠も同じだった。


人間らしく振る舞うためには、本来の自分を見せるわけにはいかない。


「欲の発散に付き合ってあげようか?やり過ぎないところで止めてあげる。」


「どうしてそこまで俺に関わろうとするんだ。」


「何度も言わせないでよ。」


「面白そう、か。イマイチわからないな。」


「それに俺はただの喧嘩よりもう少し面白い現場の提供をしてあげられるよ?」


「どういう…、」


「言ったろう?俺の育ての親は犯罪者なんだって。」


「……だからこの部屋に来たら面倒になるって言ったのか。友達でも呼んでる時に来られたら誤魔化せるかどうか怪しいから。」


「そういうこと。でも久遠しかまだ入れたことないけどね。一応なんだ。用心するに越したことはないだろう?俺たちみたいな人間はさ。」


「夜霧は一般人で居られるのに迷ってるのか?」


「正直どっちでもいいと思ってるよ。他人なんてどうでもいいしね。でも、それが理由にはならないでしょ?」


「まあ、そうだね。」


「俺たちは人間になりきれない獰猛な動物みたいなもんなんだよ。どっちの世界で人間になるのか。その理由になるものを欲してる。だからその間は人間らしく振る舞っておかないとね。」


やはり相変わらずにこやかな笑顔は懐っこく見えるのに、ヘーゼルの眼差しだけは底冷えしていた。


誰にも言ったことがないという自分の素性をこうもペラペラ喋っているあたり信用していいのかわかりかねるくらいだ。


けれどその理由は聞かなくてもある程度予測できた。


「似たもの同士、息のしやすい場所は必要ってところか。」


「ご名答。それに自分の事情を全部知ってる奴っていうのは貴重でしょ?」


「強制的に聞かされただけなんだが?」


「俺、人を見る目はあるんだ。それに大切なものが増えると道を踏み外しにくいだろう?」


「大切?俺は基本的に他人に深入りしないと決めてあるんだけど。」


「うん、じゃあ俺に深入りしとこう。そうしよう。お互いのために。」


「………。」


ジト目を向けていた久遠である。


夜霧の人懐っこい笑顔はするりと他人の懐に入ってくるのだ。


ただそれが久遠でなければ仕方ないなと、その愛嬌に絆されていたかもしれないが…。


相手は他人への共感が一切できない男なのだ。


まあつまり、


「自分のために俺は夜霧を利用できるし、夜霧にも何かメリットがあるということでいいのかな?」


愛嬌に流されるとか何かを愛でることが無い久遠にとって、言葉の意味を考えた返答になるのだ。


「………うーん、やっぱり効かないか。」


「なにが?」


「俺のこと少しは可愛がろうとしてくれてもいいのに。」


「可愛いという意味は理解しているつもりだが、男にも使うものなのかい?」


「久遠ってやっぱり面白いね。」


「は?」


全くもって理解不能という顔で頭にたくさんのハテナを飛ばしている久遠である。


その様子に夜霧はケラケラと笑いながら、


「まあ少し気長にやるよ。他人に深入りしないと決めているくせに、殺人鬼になれない理由はなんなの?」


「………幼馴染がいる。それがまた情けないやつでね。責任持って一人で生きられるようにだけすると約束してしまったから。」


「まだ手放せないと?」


「いや、もう大丈夫だろうが逆に心配されてしまって…。どう抜け出そうか考えあぐねているんだ。急に消えたらそれはそれで面倒な気がするし。」


「つまり、その幼馴染は久遠が大好きだから久遠離れしないってことね。」


「そうなるね。どうしたものか。束縛されるのは嫌いなんだ。」


「束縛。…ふうん?そう受け取るんだ。面白い。」


「さっきからなにが面白いのか全くわからないんだけど?」


「わからなくていいからこれからもよろしく。」


「???」


夜霧の楽しみ方を理解できるやつなんて居るわけない。


この男は人をオモチャにできる才能を持っているのだ。そんな奴が複数居てたまるか。


けれどそれを久遠が理解できるのはもう少し後のことになる。


「俺も久遠大好きになったらいいってことだね。」


「なんでだよ、気持ち悪いからやめてくれ。」


「だって幼馴染が久遠大好きだから人間やめてないんでしょ?それって少なからずその幼馴染のことが大切ってことじゃん?」


「そういうのじゃない。あまり口外しないで欲しいんだけど、」


「うん?」


「本当は従兄弟なんだ。」


久遠は自分の複雑な家族関係について話していた。


「家族だから助けてるって言いたいの?そんなお人好しではないでしょ?」


「俺が育てたようなものだから利用価値があると言いたいんだよ。まあ確かに他人に深入りしないと決めているルールを破ったからある意味特別ではあるだろう。それでも見捨てるタイミングが来れば捨てるよ。」


「さあて、本当に捨てられるか見ものだねえ〜。」


「出来ない理由がない。」


「利用価値が無くなったら捨てるの?特別だとは思ってるくせに?」


「価値があろうが特別だろうが邪魔なものは排除する。要らなくなったら捨てるのはみんな同じじゃないの?」


「なるほどねえ、やっぱ面白いなあ久遠は。」


「なにも面白いことなんか言ってないけど?」


「それって世間一般的に見ると仲の良い家族ってことじゃん。」


「そう見えているならそれはそれでいいんじゃないの?」


「仲が良い自覚はあるってこと?」


「まあ、そうだね。仲が悪ければそもそも一緒に居ないだろう。」


「でも要らなくなったら捨てると。」


「そうだね。」


「うん、じゃあやっぱり俺も久遠大好きになって仲良くする。」


「は?なんで?」


「少なくとも要らなくなる理由が無い限り、久遠は殺人鬼にはならない。そういうことでしょ?」


「それは、」


「久遠にとって大切な人では無いかもしれないけど仲の良い特別な存在だとは思ってる。それは少なからず人間をやめない"ちゃんとした理由"になってる。」


「………なるほど、わかりやすい。」


「だから俺とも仲良くしよう。そしたら理由が増える。」


「わかった。」


理解すると素直な久遠の様子に夜霧もにっこりと笑っていた。


「部屋余ってるから久遠の部屋作ろう。今日も泊まって行きなよ。」


「なんでそんなに楽しそうなの?」


「楽しいからに決まってるじゃん。」


「こんな話しをしているのに?」


物騒な話ししかしてないよね?と久遠が小首をかしげると、夜霧は「それが楽しいんじゃん。」と言っていた。


「普段連む連中には絶対言えないことでしょ?秘密を共有する友達がいるのは居心地もいいし楽しいに決まってる。」


「そうなんだ。」


「そうなんだよ。だから明日から一緒に学校行こう。」


「ねえ、懐かないで欲しい。」


「絶対やだ。」


「…………。」


ニコニコと、それはもうテンションも上がっていて上機嫌だとわかる夜霧に寝室へ案内されるのだ。


犬の尻尾があったら絶対ぶんぶん振り回していることだろう。


拾われたのは久遠だったはずなのに、どうしてか拾った側の気分にすらなる。


だからこそストレートに牽制したというのに即答で断られてしまった。


これに対して思いっきり嫌そうな顔をする久遠だったのに、夜霧は余計にニコニコしているのだ。


「凄い嫌そうだね。」


「凄い嫌だからね。」


「そのうち慣れるよ。」


「慣れたくないんだよ。」


「俺と仲良くするって言ったじゃん!」


「俺が必要な人間ではないと思うんだけど?」


「じゃあ俺がどれだけ有能か見せたらもっと構ってくれる?」


「見せるってどうやって?」


「そのうちわかるよ。」


「?」


二人の出会いは真夜中の血生臭い場面から始まったものの、


こうして桂月にすら秘密の特別な友達ができたのだった。




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