Night lover番外編(幼馴染❸(高校生編))


「ちょっと世理ちゃん〜、俺の分も残しといてよ〜。」


「片付いたらなんでもいいだろ。てかなんで朝っぱらから喧嘩売られなきゃなんないの?」


道端に倒れ込んでいる不良らしき人間が複数倒れ込んでいる中、


「喧嘩売ったのはお前だ世理!桂月が投げたボールを思いっきり蹴り飛ばしてぶつけたんだろ?!」


伊万里が驚愕しながら突っ込んでいた。


なんで喧嘩売った奴が売られたと思い込んでいるのだと。


「ああ?別に狙いをつけて蹴ったわけじゃない。そもそも桂月がオモチャなんて投げるのが悪いんだろ。」


「キャッチボールの容量で受け止めればよかったじゃん〜。なんで蹴ったりするかな〜?」


「なんとなく。」


「なんとなくでこんな有様にした世理が絶対100%悪いだろ?!」


桂月が高校生になって久遠に言われた友達作りの過程で仲良く?はないが連むようになったのが世理と伊万里だった。


「ていうか桂月もなんでオモチャなんて投げた?!」


「ええ〜、なんとなく?」


「お前らほんっと、少しは周りの迷惑を考えて動け?!」


「「なんで他人のことなんて考える必要が?」」


「そういうところだけハモるな?!」


もう嫌だお前ら!と伊万里が泣く姿はこの頃から当たり前の光景だった。


「そういや久遠知らない?」


「なんで久遠〜?」


「先日の借りを返す。」


「やめときなよ世理ちゃん〜。まだ根に持ってんの〜?」


「当たり前だ!あのイカれ野郎のせいで捕まりかけたんだぞ!!!」


「なにしたらそんなことになるわけ〜?」


「ただの喧嘩だったってのに、あいつタガが外れたんだ。」


舌打ちをする世理は腕の包帯を見せてくる。


桂月はそれに顔色を変えることなく誰にも聞こえない声で「………またか。」と呟いていた。


「止めようとしたらこっちに殴りかかってきやがって…!」


「すげえギャップだよな。普段は凄い温厚そうだし、しかも超エリート高通ってるしさ。喧嘩できる風には見えないのに。」


「そういう奴ほどヤバいんだよ実は〜。」


「あれ、3人揃ってなんの話し?」


最中、登校中なのかひょっこりと現れた久遠の姿になんの躊躇いもなく蹴りを振り切っていた世理。


伊万里が「うわあ!」と反応した叫び声と同時に久遠はその蹴りの範囲からヒョイと外れていた。


そのまま世理が先ほど取り出して袋を外した棒付きの飴を掻っ攫い、口に咥えるのだ。


「相変わらず甘いもの好きだね世理。」


「な…!僕の飴…!!!」


「ていうか挨拶のように蹴るのやめて欲しいんだけど?びっくりするじゃん。」


「そんな理由?!」


二人のやりとりに伊万里が思わず叫んでいた。


普通は怖いとか痛いとかそういう理由じゃないのかと。


「あ、伊万里と桂月もおはよう。」


そのまま面子を確認してガリっと飴を噛み砕く久遠である。


楽しみにしていた飴を奪われた挙句、舐めるという楽しみを一切せずガリゴリと噛み砕く音が響くと世理の顔色が変わっていた。


「絶対殺す。」


「世理やめろ?!たかが飴だろ?!」


「ああ?」


「飴くらいまた後で買えばいいだろ?!」


「うるさい絶対殺す!最後の一本だったのに…!」


ブチ切れた世理をなんとか止めようとする伊万里。


その隣では、


「飴くらいで怒らなくてもいいのにね。」


「世理ちゃんは飴ちゃん中毒だから〜。食べ方にもこだわりあるっぽいよ〜?」


今しがた火をつけた煙草の煙を吐き出していた桂月が久遠を横目にどうでもよさそうに話していた。


そんな桂月の指の合間から煙草を取った久遠は一回大きく吸って煙を吐き出すのだ。


「ちょっと俺の煙草…、」


「飴食べた後に吸うと不味いね。」


そうして一度吸った煙草を桂月に返せばよかったものを、地面に落として踏み潰すのだ。


一部始終を見た桂月はふるふると震え出し、伊万里が止めきれなかった世理もズンズン近寄ってきており、


「「ぶっ殺す!!」」


「桂月まで加わったの?!」


伊万里がギョッとする中、久遠は迫ってきた二人をまるで気にしておらず、時間通りに来たバスに乗り込んでいた。


まあつまり、


「じゃあね。」


「「最後の一本返せ!!」」


二人の大事なものを目の前で壊して逃げたのである。


この頃の久遠は暴力は勿論だが、何かと誰かの大切なものを掻っ攫ったり目の前で壊したりという行動が目立っていたのだ。


その被害者はほぼ桂月と世理である。


そのため、大人になってもこの二人が久遠を嫌いな理由のひとつに必ずあげられる。


久遠に言われた通り、桂月は久遠と仲が良いことは隠していたし知らないフリを完璧にこなしていた。


ただそれを続けていると桂月も久遠の嫌いな部分が出てきて本気で喧嘩腰になることも多々あった。


つまり高校生にもなれば四六時中久遠にくっついていた弱虫な桂月の姿はなく、もう守ってもらわなくても自分の身は守れるようになっていたのだ。


まあそれに高校が違うので久遠と会えるのは家の中でのみ。


この頃はまだ久遠が桂月の家に居候していたので、時間帯が合えば部屋で話はできた。


…が、それも稀ではあった。


久遠はいつ寝ているのかわからないくらい夜中まで帰ってこない時もあったし2、3日帰ってこない時もある。


桂月も人のことは言えないが、それでも久遠は不良という一線をいつ越えてもおかしくない頻度で返り血を浴びていたりもした。


だから高校生の頃は立場が逆転しており、桂月が久遠の心配をするようになっていたのだ。


「今日は帰ってきたんだ久遠〜。」


「ああ、うん。」


「ねえ、大丈夫だよね?」


「なにが?」


「なにがって、その病気のことだよ。」


「…そりゃあ大変だよ。一番体力有り余ってる年頃だからね。」


自分の手のひらを見ながらにこやかに答える久遠は穏やかな口調で人を壊したい欲を持っている。


自分のことをまるで他人事のように言いながら自己分析はしっかりしており、理性的であることがまだ救いだった。


「………勝手に消えんなよ。」


「桂月に心配されるとは思わなかったな。そんなしょぼくれなくてももう一人で生きていけるでしょ。」


「そういう問題じゃねえだろ。」


「そうだね。」


わかってるよ、と久遠が朗らかに笑うと桂月は不安になる。


この貼り付けただけの笑顔が癖になっているくらい、人間らしく振る舞うことが板についても本性は変わらない。


「女でも抱いてみたら?」


「試してみたけど身体の構造が頭に浮かんで、どこをどうすれば殺せるかばっかり考えてしまうんだよ。」


「女体への魅力の感じ方がおかしすぎるな〜。」


「女体というか人体の構造は性別関係ないから。」


「そういうこと言ってんじゃねえよ。」


「そもそも性欲のほうはほぼない。興味ゼロなんだよ。桂月がなんでそう快楽に走るか疑問なくらい。」


「お前本当に男子高校生かよ〜。世理や伊万里でもある程度性欲の発散はやってんぞ〜?」


ドン引きだわ、と桂月が呟くが久遠はなにも感じていない様子だった。


たまに顔を合わせた時、桂月は久遠と会話を重ねるようにしていた。


くだらない話しでもいい。


久遠の中の衝動が一時的に紛れるように、なにを思っているのか口に出すだけでも少しはマシだろうと考えたのだ。


「世理ちゃんから聞いたよ〜?タガが外れたって?俺らの中で運動神経一番いいのに包帯してたぞ。」


「ああ…、だって気持ちよく殴ってる時に急に止めるから。あの時は本当に理性が消えてたというか…。暴力で人を殺せる力があるんだと思うと止まらなくてね。」


「小学生や中学生の頃は大人より力が弱かったからってこと〜?」


「そう、でも止めてもらえてよかったよ。世理でないと相手を殺してた。」


「世理ちゃんも大概ボロッボロだったけどね。服の下まで見てないけどどうせ理性が戻るまで世理ちゃんに相手してもらったんだろ〜?」


「警察に捕まる一歩手前だったなあ。世理がただの喧嘩って押し通してくれたけど。」


「世理ちゃん負けず嫌いだからなあ〜。借りを返すって言ってたよ?どんだけ一方的な喧嘩だったのさ〜。」


「俺が人を壊すことにおいて誰かに劣るならこんなに困ってないよ。」


「………久遠、」


「それより借りを返すって言い方間違ってるよ。借りを作ったのは俺なのに。世理は相変わらず言葉の使い方がなってないな。国語から勉強しなおしたらどうだろう?」


「滅茶苦茶どうでもいいわ〜。」


たまにいつもの久遠に戻るのだが、あまりにもくだらなさすぎて顔が引き攣る桂月である。


「どっかに殺人許可証とか落ちてないかな?発行してくれたら喜んで殺るのに。」


「イケメン落ちてないかなみたいに言うな。」


「ありがとうねいつも話しを聞いてくれて。」


「なん……、え?気持ち悪。」


「酷いな桂月。これでもお前の意図はわかってたんだよ。素直なお礼になんていい草だ。」


「………別に、勝手にやってるだけだし。わざわざお礼言われるほどなんか効果あるとは思えないんだけど。」


カアッと、不意打ちのお礼に赤くなる顔を背けてしまう桂月である。


素直な好意に不慣れな桂月は、好意を伝えられるとどう受け取ればいいのかわからなくなるのだ。


久遠はそれもわかっているから別に不快さはなかった。


「効果があるとか無いとかじゃなくて、話しを聞いてくれるというのは少し落ち着くんだ。まあでも回答が出ない会話になるのはモヤっとするけど。」


「回答が得られる会話って逆にどんなのだよ。」


「わからないけど、俺の中の疑問や葛藤が少しでも解消されたらこの衝動も薄れるかもしれないじゃん。」


「俺は聞くことはできても久遠の回答なんて持ってないから〜。」


「わかってるよ。だから疑問を投げてないだろう。」


「疑問?例えばどんなんだよ〜?」


「無条件に好きだって言われるのって意味不明すぎない?」


「うん?そうだね。」


「………はあ。やっぱり桂月では回答は得られないか。」


「いや、それに対してどんな回答が正解か逆にわかんないんだけど?」


「俺もわからないから聞いたんだよ。でも桂月だって愛されて育ったわけでもないし、常識があるわけでもないからね。俺と同じ疑問を抱くのは当然だって理解もしているよ。」


「………その疑問に対する正解の回答が出せる奴は常識あって愛情を知ってるってこと?」


「そうなるね。」


「それってさ、妹をどうすればよかったのかって疑問だろ〜?俺は弟に会ったこともないのにわかるわけないじゃん〜。」


「うん、わかってるよ。試しに疑問を言ってみろって言うから聞いただけだし。」


「………回答が出せる人に会えたら久遠はどうすんの?」


「さあ、わかんない。まるで夢みたいな話しだもん。」


「久遠の夢は物騒なやつか、本当に夢物語しかないのかよ〜。」


「どっちか叶ったら俺は満足できるかなあ〜?」


「殺人許可証は絶対あり得ないから、回答を出せる人に出会えることを期待するんだね〜。」


「そうだね…。期待しないで待っておくよ。」



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