Night lover番外編(話し相手②)

「そういえば昔、親というものに誕生日プレゼントで妹をもらってさ、」


「………え、それは比喩とかではなく人間の妹ってこと?」


「そう。孤児院から引き取ってきてわざわざ俺の妹にしなさいって。」


「どこから突っ込めばいいかわかんないけど取り敢えず聞くに徹するね。」


「それがまた意味のわからない動物でさ。」


「妹を動物扱いしないの。」


「話し相手にって贈られたモノの癖に言葉を理解しないんだもん。」


「もんじゃないよ。そもそもなんで誕生日プレゼントに話し相手?妹?そっからわかんないんだけど?」


「他人に共感できず、心のない子供だったからさ。何かに愛着が持てれば感情が生まれるかもと思ったんだろうねあの親は。」


「すごい他人事みたいに言うじゃん。」


「他人事だったらいいのになあ。」


「最低かよ久遠くん。」


「それでさあ、無条件に好きだって言ってくるわけ。意味不明すぎない?」


「いや、普通では?健気にも好かれようとしてるんじゃん?」


「俺にそんなの求めないで欲しい。」


「酷いお兄ちゃんだなあ。」


「意思疎通のできないやつを妹だと思ったことはないよ。」


「てか他人に共感できないって、サイコパスってこと?」


「そうみたいだよ。」


「自分のことでしょ?」


「俺は自分が異常なことくらい理解してる。でもね、理解はできても共感はできないわけ。つまり好き嫌いで判断する低脳で馬鹿な書類上の妹を押し付けられても治療薬にはならないんだと何故わからないんだろう?ああ、馬鹿だからか。」


「親に対してもそんな感覚なんだね。」


「そうだよ、だから早々に排除したんだ。」


「え、排除って?」

「出て行くよう仕向けた。簡単だよ。逃げ出したくなる人間の心理はいつだって恐怖と覚悟があればいい。」


「待って、排除したのは親?それとも妹?」


「どっちも。」


「……必要ないから要らないってこと?」


「さすが日向くん。話しが早い。」


「なんでそんなこと急にあたしに話したの。」


「いやね、なんとなく思い出したんだよ。そういえばあの動物も日向くんと同じくらいの歳になってるはずだとね。」


「一応妹だったんでしょ?思い出し方もひどいな。1ミリも好意は抱かなかったの?」


「抱かなかったね。だから親が試そうとした通り、その動物に俺を好きになっていい許可は与えてみたけど…。」


「けど?」


「とっくに好きだと抜かすんだこれが。言葉が通じないにも程がある。」


「それ何歳の時に言ったの久遠くん。」


「5歳くらいだったと思う。」


「はいアウト〜。それは言葉通じなくても仕方ないよ。」


「俺がそこまで考慮してやる義理はないじゃん。」


「義理とかじゃなくて子供に対する対応として間違ってるって言ってるんだよ。好き嫌いの根拠なんて5歳児にあるわけないじゃん。」


「そこら辺を考慮するのはプレゼントしてきた親の義務じゃないの?」


「まあ、そう言われるとそうかもしれないけど。」


「恋人のような真似事もしてみたんだよ?俺が誰かに共感できる練習台として来たからね。でもシンプルに飽きがきたんだよね。」


「久遠くん酷い、最低、女に刺されろ。」


「刺してくれるの?日向くん。」


「なんで嬉しそうなんだよ。」


「親を排除した後、その動物の面倒を見たのは俺なんだから試すくらいいいでしょ?」


「……共感しろとは言わないよ。理解してるんだったらなんでわざと物のように扱うの?練習台って言うけど生きてる人間なんだよ?」


「対人間というより動物に近かったからだろうね。俺にとってはペットを飼ってる感覚と同じだった。」


「シンプルに酷すぎる。」


「でもその動物も逃げ出してしまったよ。」


「飽きたからわざとそう仕向けただけでしょ。」


「どっちでもよくない?」


「よくない。その子はきっと久遠くんのことを幼いながらに理解しようとしてたはずなのに。」


「そんなこと言われてもねえ。俺につきまとって、好きばっかり押し付けて来て、言葉を何も理解しない奴をどうすればよかったのさ。あのまま飼っていたとしてどんな未来があったと?」


「なんであたしにそんなこと聞くわけ?」


「ふと思い出しても、やっぱりわからないからだろうね。日向くんならどうするかと思って。」


「まあシンプルに合わないなら付き合わないでいいと思う。」


「うん?」


「久遠くんにとっては動物でも、生きてるんだから心はあるの。無理に付き合ったり付き合わせたりしなくていいんだよ。放っておけば別の人と仲良くなって、久遠くんじゃない人を好きになって、あわよくば結婚まで行くかもしれない。」


「ふむ。」


「案外、その子に自分は必要なかったりするんだよ。妹ちゃんが久遠くんにまとわりついてたのは他に誰も居なかったからじゃないの?」


「それは一理あるね。なるほど、そういうことか。家族として最低限の関わりを保っていれば、わざわざ排除する必要なくどっか行ってくれたのか。」


「言い方ね。まあ家族だろうが友達だろうが合う合わないはあると思うけどさ。」


「だから日向くんも人付き合いを最低限しかしないの?」


「なんで急にあたしの話し?まあ、深入りするとしんどいし。良い子ちゃんしてるだけでも神経使うのに、友達にまで八方美人するのは無理。」


「ふうん。」


「なに?なんでそんな嬉しそうなの?その笑顔の意味は?」


「俺には素で接してくれるんだなあと思ってね。」


「ただの塾の先生と生徒って立場で猫被る必要ないじゃん。あと普通にストレス溜まりまくってるから久遠くんと話す時くらい息抜きしたいんだよ。」


「そっかそっか。息がしやすいのは大切なことだね。」


「なに?なんなの?なんで今日はそんなにテンション高め?」


「嬉しいんじゃん。俺も日向くんとの時間は大切なんだよ。」


「ふうん。ふと思い出した妹のように練習台にしてるとかじゃなく?」


「それは絶対ない。」


「即答じゃん。」


「日向くんが妹だなんて絶対嫌だよ俺。」


「なんでだよ、同い年なんでしょ?」


「だって口説けないじゃん。」


「馬鹿じゃないの。中坊を口説こうと思ってる時点でアウトだから。」


「だったら大人になったら迎えに行くよ。」


「大人になってもおひとり様って決めつけないでくれる?あたしにだって素敵な恋人を作る権利はあるんだから。」


「ロクデモナイやつに引っかかってそうだよね日向くんは。」


「ロクデモナイ大人代表が目の前にいるんだから気をつけるよ。」


「酷いな、結構本気なのに。」


「はいはい。どうせすぐ忘れるよ。」


「思い出したら探すよちゃんと。」


「妹ちゃんを思い出したみたいに突拍子に?ああ、やりそうだね久遠くん。すごくやりそう。」


「でしょ?その時はまたよろしくね。」


「次会う時までに妹ちゃんと仲直りしときなよ。」


「別に喧嘩してないんだけど。」


「でも傷つけたでしょ。ちゃんとお兄ちゃんくらいしてやりなよ。書類上でも家族なんだから。」


「日向くんが家族のために良い子ちゃんしてるみたいに?そうだなあ…、まあ機会があればね。」


「ほんとかなあ〜。まあ次が本当にあったらその時聞けばいっか。」




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