Night lover番外編(話し相手①)

「そういや君、名前なんていうの?」


「は?生徒の資料も見てないの?!」


「見てないねえ〜。馬鹿ばっかりいちいち覚えてらんないじゃん。」


「先生としてあるまじき発言したね今。」


「君は覚えておいてあげようってんだからいいじゃないか。光栄に思いなさい。」


「そんな光栄別にいらないからちゃんと先生してくれない?」


「その先生呼びもやめない?先生してるつもりないし。」


「本当にね。先生するつもりないなら辞めなよ。なんでここで働いてんの?」


「辞めるつもりだったけど君に当たったから先延ばしにしたんじゃん。」


「話し相手も居ないの?友達くらい作ろうよ先生。」


「久遠って呼びなさい。あと友達は話し相手にはなり得ないものだよ。」


「久遠先生にとって友達ってどんな定義なの?」


「先生はなし。」


「呼び捨ては流石に、」


「俺の話し相手なんだから呼び捨てで構わないよ。」


「久遠…、くん。」


「ふむ、君付けはされたことないな。いいね、それにしよう。で?君の名前は?」


「日向。」


「ヒュウガって書くほうの?」


「そう、ヒュウガって書いてヒナタって呼ぶやつ。」


「陰のない人なんて意味、似合わなさすぎないか?」


「うるさいなあ、そっちだって永遠って意味の名前似合わなさすぎじゃん。」


「言えてるね。じゃあ君のことは親しみを込めて日向くんって呼ぼう。」


「なに?君付け気に入ったの?」


「まあそれなりに。」


「てかさっきの質問なんだけど、」


「友達の定義ってやつかい?」


「そう、話し相手と何が違うの?」


「強いて言うなら友達なんてまやかしだ。レベルの同じ人間が仲良くするものを友達と呼ぶのか親友と呼ぶのか恋人になるのかって話だと思わないか?」


「ひねくれてるなあ。」


「その点、話し相手は気兼ねがなくていい。距離もある程度あった状態で仲良くなりすぎないだろう?こうしてテンポよく会話だけを楽しめるのは実にいい。」


「久遠くんなら話し相手なんていくらでも作れそうなのに。」


「そんなことないさ。馬鹿を相手にする気はないと言っただろう?察しの悪い人間は嫌いだし、俺を不快にさせる言葉遣いの奴も論外だ。基本的に人として頭悪い奴もダメだし、シンプルに頭悪い奴はもっとダメだ。」


「なんて厳しい審査員だ。」


「その点、日向くんはすごくいい。楽しいって言うのは多分こういう感覚のことなんだろうね。」


「楽しい、か。あたしも久遠くんと話してる時は気楽だって思ってるから楽しいになるのかな。」


「さあ、それは知らないが…。」


「うん?」


「俺が楽しいと認めているんだから日向くんも同じ気持ちでなければダメだ。」


「どんな理屈だよそれ。」


「感覚の共有だよ。二人で話しているんだからどちらかが不快だと感じたらこの関係はダメになるだろう。」


「えー、そう?あたし結構不快なこと言われた気がするんだけど。」


「でも通ってくるってことは、なんだかんだ共有できる時間に満足しているということだね。」


「え、これハメられた?あたしに満足してるって認めさせようとしてる?」


「そこは素直にそうだねって言っときなさい。」


「久遠くん本当にあたしのこと気に入ってくれてんだね。」


「最初から言ってるじゃん。俺は自分の気に入らないものに時間を割いたりしないよ。」


「なんだかんだと理屈っぽいけどさ、久遠くんそんなに寂しがりなんだから早く彼女でも作れば?」


「日向くん、それは立候補してくれてるって取っていいの?」


「なんでそうなるの。ただの中坊を候補に入れたら久遠くんは大人としてアウトだからね。」


「歳なんて関係ないってよく言うじゃん。」


「ロマンス小説でも読んだの?あんなの二次元だけじゃん。実際は周りの目があるし、歳だって重要だよ。関係ないなんて言えんのは二人の世界に浸ってる頭に花畑咲いた本人たちだけ。」


「うわあ、すごい辛辣。なんて現実的なこと言っちゃうんだろうね。」


「本当のことじゃん。」


「じゃあ日向くん、早く大人になってよ。」


「………なんでそうなるかな。あたしを候補に入れんなって言ったんだよ?聞いてた?」


「あははっ。まあでも日向くんが大人になって、もしもまだひとりだったら告白くらいしに行ってあげるよ。」


「素敵な彼氏とラブラブだったら邪魔しないでよ。」


「そいつが日向くんに相応しければ応援してあげよう。」


「なんでだよ?!久遠くんはあたしの保護者か?!」


「お気に入りだって言ってんでしょ。」


「お気に入りへの執着強すぎでは?!あたしの彼氏にまで口出す気満々じゃん!」


「基本的に俺、誰かに愛着とか持たないんだけど…。いや、日向くんは本当にすごいね。俺に愛着を持たせるなんて。」


「言い方ね!執着を愛着にすれば聞こえがいいとでも思ってる?!誤魔化してるつもり?!」


「どっちでもいいっていうなら聞こえのいい方がよくない?」


「そういう判断なの?!びっくりだよ!久遠くんって耳障りを気にするんだね!」


「それは………、確かに。なんで俺、日向くんの聞こえ方を気にしたんだろう?」


「知らないよ!?それはあたしが聞いてるんだよ?!会話をして欲しいんだけど?!」


「ねえねえ、日向くん。結構真面目に言うんだけどさ、」


「今度はなに。」


「俺たち付き合わない?」


「ねえ、中坊に告白するとか頭沸いてんの?さっきまでの話聞いてた???」


「じゃあ日向くんが大人になったら迎えに行くよ。」


「来なくていいよ!普通にやだよ!なんなのロクデナシ筆頭の大人なのかよ久遠くんは!」


「あははっ、そうかもね〜。でも俺に愛着されたんだからそれなりに構ってくれないと酷いことするから。」


「このロクデナシ最悪じゃん。勉強も教えてくれないし、先生もしてくれないし、中坊に告白するし、未来の彼氏にケチつける気満々だし数えていくとキリがない。」


「俺もね〜、好き嫌いで誰かを判断することってないんだよ。気にいるかどうかってのはあるけど、仲良くはしないって決めてある。だからまあ、この場限りのもんだと思いなさい。」


「はあ…、寂しがりのくせに面倒臭い大人だなあ。」


「でもちゃんと日向くんのことは好きだよ。自分でも結構驚いてるくらいには。」


「ほんとかなあ〜。嘘くさいなあ〜。好きにも種類があるんだよ?知ってる久遠くん。」


「俺の好きを疑いすぎじゃないかな日向くん。」


「だってさあ〜、その場限りの関係でその場限りの好きなんて絶対本気じゃないじゃん。」


「…………案外、本気でのめり込みたくないだけかもよ?」


「?」




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