もしも黒猫様が悪女に転生したら15

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現在、僕の部屋で集まってもらった3人に古代兵器が何だったのかを説明し終わったところである。

アレンには講師特権で外出許可を出してやり、休日を使って誰にも聞かれないようリリーに結界まで張ってもらって、

慎重に慎重を重ねた上で話したのだ。

「まさかそんな仕組みだったとは…。ならば数百年前に俺が見た兵器は王と認められた人物が想像で創り出したものだということか。」
「そうなるな。」
「価値のつけられないお宝の正体はそういうことだったんだ〜!アーティが俺の探してたお宝だったなんて!!!」
「興奮しすぎだ。あと絶対に他言無用だぞ!」
「アーティス様。なんかどんどん支配者らしいお力を集めていってますね…。」
「それを言うな!やらんからな!何が王だ!絶対にそんなものにはならんぞ!!!」

やはりこいつらには正直に話してよかった。

アレンはガッカリするのかと思っていたが、僕の予想を超えてめちゃくちゃ嬉しそうに抱きついてくる。

ロマンとやらは叶えられたようでよかったが鬱陶しいことこの上ない。

「さすがに皇帝陛下にも報告のしようがありませんねこれは…。容易に話すことそのものが危険でしょうし。」
「うむ。それより無から有を創り出す力とやらを見てみたいのだが???それはどういう仕組みなのだ?アーティを調べさせてもらいたい。」
「おい、完全に目がイカれてるぞリリー。」
「俺のお宝に触るんじゃない!!!」
「お前も怒り方おかしいからな?アレン。」

ぎゃんぎゃん、わいわいするのはもうなんだか慣れた光景になってきたな。

こんな話しでもいつも通りの光景を見るとホッとする。

事が事なだけに、魔法陣さんという余計なものを持ってしまった事はあまりにも危険すぎる。

チート能力なんて別に欲しいわけでもなかったのに。

そんなものなくてものほほんと生きてやれるのに。

それでも持ってしまったものは仕方ない。

こればっかりは前世の小説にも描かれてはいなかった。

アレンの行動そのものが僕の行動のせいで変わってしまった結果だからな。

本来であればヒロインと出会うまでアーティスとの接点なんてなかったし、

作中でもアレンはヒロインに会うべく、夜な夜な城に侵入するような描写しかなかった。

裏で何をやっていたかとかそこまで詳細な設定があだたのかすら、僕は興味なくて調べてすらいなかったしな。

「これで学園生活もやっと終わる〜!窮屈だったから早く辞めたいんだけど?」

アレンは呑気なもんだ。
僕の悩みを押し付けてやりたい。
お前のせいで魔法陣さんが頭に住み着いていると言うのに。

まあでもこの無邪気でマイペースなところはある意味癒しでもあるか…?

「そうだな。僕もとっとと辞めたいが、残ってる仕事を片付けないと。」
「他にもなんかあるの?」

アレンがキョトンとするのも無理はない。

理事長に喧嘩売った場面を見てないからなこいつは。

「リリー、ユラン。進捗はどうだ?」
「概ね完了しているぞ。」
「こちらも言われたことは手配済みです。」
「よし。じゃあ売られた喧嘩を買ってやらないとな。」

ニヒルに笑うとアレンが「悪い顔してる〜!かわいい〜!」なんて擦り寄ってくるのもいつものことである。

「あっちが仕掛けてくるのはそろそろだろう。」
「なになに?俺だけなんにも知らないのズルイ!教えてよ!」

アレンの駄々を聞きながらその日は説明するだけで終わった。

取り敢えず、ひとつひとつ解決していくしかない。

そんなことを考えながら僕は久し振りにぐうたらできる時間を満喫したのだった。

*****

それから数日後。

「アーティス・べレロフォンはいるか?」

やっと来たか、と思って生徒たちの授業中に入ってきた身なりのいい男に振り返っていた。

当然、ユランとリリーは透明化してそばにいる。

「なにか用か?」
「ついてこい。ここでする話しではないからな。」

チラと生徒を見やるそいつに僕はやれやれと思いながら首を左右に振っていた。

「ここで話してもらって構わないぞ。なんなら理事長も呼ぶか?」
「なに、」
「生徒に聞かれても構わないと言ってるんだ。大人のやり方を見せておくのも悪くないしな。」

これも勉強だぞ、と生徒たちににこやかに言い放つ僕。

これには最初から出鼻を挫かれた男がワナワナしていたが、瞬時に冷静さを取り戻していた。

そのまま懐に手を突っ込み、書類を僕に見せてくるのだ。

「わかるか?これはアーティス・べレロフォンの告訴状だ。」

その一言でクラスがざわついたが僕は平然と見つめていた。

「ほう?またどんな罪状で?」
「意図的に生徒と親の縁を切り、子供と親へ恐喝と脅迫を行い、学園存続の資金援助を停止させた妨害行為などなど。理事長に対して過剰な暴言も言ったそうだな?署名もこんなに送られてきている。裁判所としては見逃せないのはわかるだろう?」

そこまで言われても僕からすれば全て予想通りの展開だった。

まあでも、

「はあ?!なに言ってんの?!あたしたちは恐喝も脅迫もされてないわ!!!」
「そうよ!先生は確かに最初怖かったけど言ってることは正しかったわ!」
「俺らを先に見限ったのは親だ!大人たちだ!!!先生は俺らに現実を教えてくれただけで見捨てたりなんかしなかった!!!」
「なんも知らねえのにクソみたいな事言ってんじゃねえよ!!!」

生徒たちの方が僕を庇うように立ち上がって叫び出したのである。

まあこんな子供の言うことに耳を傾ける奴ではないだろう。

現にうるさいなと言いたげな目でチラと子供達を見るだけで、同行してもらうぞと僕を見つめてくるのだから。

「まったく、ここまで予想通りだと面白みもクソもないな。」

僕が静かに言うと生徒たちが静かになり、男は眉根を寄せていた。

この期に及んでなにを言っているんだと言いたげだったから、僕は「ユラン。」と声をかけたのだ。

すると透明化していたユランが姿を見せて、今しがた訪問してきた男にある書類を手渡したのである。

「これは…!」
「不思議だよなあ?お前が持ってる署名と全く同じ人物が、僕を支援するという署名だ。」
「なに?!」
「ユラン、あれも見せてやれ。」

僕が指示するとユランは別の書類を出して手渡すのだ。

「な…!」
「理事長に対する逮捕状だ。」

にこやかに言えば男は面食らった顔で停止していた。

…が、こんな茶番劇に時間を割く気はない。

「どうなってるんだ!これは一体…!」
「ユラン、あれも出してやれ。」
「はあ?!なんで…!」
「僕を告訴することを放棄するという署名もちゃんと確認したな?」

にっこりと言えば男は気が動転しており、僕と書類を交互に見ては理解が追いついていなかった。

「簡単なことだ。理事長が根回しをして裁判所に告訴状を突き出せるだけの署名を集めた後に僕がそれを取り消す署名を書いてもらった。」
「脅迫したと?」
「お前は馬鹿なのか?そんなことができる貴族連中だと思うのか?僕よりも爵位が高い連中ばかりだというのに。」
「それは…。じゃあ何故だ。何故、告訴した相手の望む署名を書いたと言うんだ?」
「簡単だ。理事長が裏でなにをやっているのか、証拠を全て見せてやったのさ。」
「どういう…、」
「リリー。証拠の映像を見せてやれ。」

すでにユランと共に透明化を解いていたリリーが、映像石を男に投げてやるのだ。

そこには理事長が学園に子供を入れて欲しいと言う親から金銭を受け取り、裏口入学を了承する映像が記録されていた。

それだけではない。

子供の教育や健やかな成長、将来を担う投資に使われる学園の資金を自分の豪遊の為に横領している姿や、

賄賂を定期的に持ってこない生徒への厳しい接し方と、賄賂を定期的にくれる生徒への甘い態度を映したあまりにも差別的なやり方。

そして教師たちの給料がこの数年上がっていないこと、入れ替えが激しいこと、なんならそこら辺で少し魔法をかじっただけの安月給で雇える教師を人数合わせで迎えていた事実。

ほかにも上げていけばキリがない証拠の映像を記録していた。

「僕は単純に、どちらについたほうが得だろうか?と署名している者たちに問いかけただけさ。日付を見ればわかるだろう?理事長が持ってきた署名よりも後の日付で署名されてるからな。」

誰だって自分が一番可愛いし、率先して崩落する相手に媚びなんて売らない。

貴族とは己の地位と名誉を守るためならばなんだってする。

そこを利用したに過ぎない。

結局、子供のことを考えている親なんて居なかったという事実もついてきたが、今はそんなことはどうでもいい。

「天下の王立学園が、学力低下に加えて生徒の質が悪辣なものになり運営すら厳しくなっている現状がそれだ。」

優秀な生徒はいるのに、それを蔑ろにしてきたのは理事長だ。

このSクラスだってそうだ。

親の金の羽振りがいいから好き勝手させていたが、目に余る行動が目立ったからきちんとした講師を雇ったというだけ。

けれどそこに僕をあてがったのが理事長の誤算だった。

僕は最初から大人なんて大嫌いだからな。

確かに生徒たちに対して最初はかなりの悪印象ではあっただろうが、今では自立しようと楽しみながら自分のしたいことを目指している。

これくらいの年頃であればそれが普通なのだ。

そんな普通のことを学ばせてくれない学園が悪いのだ。

自分の私服を肥やすためだけに道具にされた子供たちは疑うことも知らずに今を生きていたのだから。

真っ当な教えも与えず、己を侮辱されたと言うプライドを優先した理事長の行動など推測は容易かった。

だから理事長が法律に則って僕を陥れようとするのなら、同じ手段で仕返そうと決めたのだ。

「あとこれも渡しておこう。」

僕がとある書類を投げてやれば、男が受け取って中身を見るなり固まる様子を静かに笑って見つめていた。

それはこの国の皇帝陛下自らが、王立学園の理事長を解雇し、逮捕状を求め、それ相応の罰を与えることを記した公式的な書状である。

もちろん皇族の印も押されている。

念には念を入れて陛下にも王立学園の現状を全て報告したのだ。(主にユランが。)

新しい理事長は別の適任者を迎えるまで、僕が理事長代理だとも記されている。

「さて、ここまでの証拠と証明、根拠と事実を提示した上で、まだ僕に同行を求めるのか?」

椅子に座ったまま、頬杖をついて問いかけてやれば顔を真っ青にしている男は深々と謝罪してきた。

「大変申し訳ございませんでした!事実確認を急ぎ行い、皇帝陛下のご意志を尊重することをお約束いたします。」

あっさりと手のひらを返した男。

その姿を見ていた生徒たちは、自分たちの言葉にはまるで関心を持たなかったくせにと避難する眼差しを向けていたが、

大人の世界では感情的な物言いなんて無意味。

根拠と証拠、事実に基づいた結果こそが全てなのだ。

「あのクソババアに伝えてくれ。無能なくせに、私利私欲を満たしたいがためのエゴで身を滅ぼした気分はどうだ?とな。」

まあ答えは分かりきってるけど。

自分で言いに行っても構わないし、最後の叫びを見てやるのも悪女らしいやり方だろうか?とも思ったが、

実際あんの小物をどうにかしたことなど優越感にも満たない。

いずれ誰かに見破られていたことを僕が早めに処理しただけだからなあ。

それにあのクソババアの負け犬の遠吠えを聞く時間を割くのであれば、

「いいかお前たち。大人にとって事実なんて然程意味をなさない。明確な根拠と証拠を揃えて叩きつけてこそ信頼を得られるものだ。お前たちは僕を信頼して庇ってくれたが、そんなやり方では社会で潰されてしまう。」

今日のこの茶番が良い例になってくれたので、授業に時間を割くほうが有意義だと思った。

未来を担う子供達と落ちぶれていくしかないクソババアなんて天秤にかけるまでもない。

「賢くなれ。感情的になる場面を間違えるな。誰かにどうにかされようもんならうまく立ち回って、仕返しできるだけの証拠を集めてから叩きつけてやれ。魔法がどれだけうまくても、剣をどれだけ使えても、力でねじ伏せられる事など少ない。」

そのために信頼を得る人間を間違えないこと。

権力と地位は己の手数を増やす手段として持つのであればとても便利なこと。

「お前たちが自分の信念を貫き、己を曲げなければきっとついてきてくれる奴が現れる。」

こいつらみたいにな、と僕がリリーとユランを紹介するとアレンが生徒側の席で立ち上がって「俺は?!」と叫んでいた。

これには生徒たちがやっと笑いを零していたから良しとしよう。

「でも先生?そんな難しいことあたしたちにできるかな?」
「そうだよ!クソな奴はクソみたいな方法しかとらないじゃん!」
「まさか正々堂々戦えとでも言うつもりか?相手がクソな手段を取るとわかっているなら具体的にどんなことを仕掛けてくるかも性格やこれまでの物言いでわかるはずだ。相手が最も失いたくないものを理解すれば自ずと蹴落とす算段も立てられるだろう?」

にこやかに言えば背後でユランが「生徒に教えることではありません!」と小言を言ってきたが知らんぷりだ。

「悪意というものの使い方を間違えるな。誠実でいたければ目を瞑っておけ。見ないふりができればそれなりの人生は歩めるだろう。でもそれができないなら…」

静かに笑いながら僕の言葉を生徒たちは真剣な顔つきで聞いていた。

「クソな大人とは違う、純粋な悪意を持って踏み躙ってやれ。搾取する相手を間違えるな。自分に危害を加えたことには一切容赦をするな。大切なものを守ることに、綺麗さなんていらないし、そもそも綺麗なものだけで世の中回らないことだってお前たちは知っているだろう?」

親から見捨てられたその瞬間から孤独になったのだ。

頼れる存在、信頼できるものは自分の生き方次第できちんと見つかるもの。

であれば、こいつらが次にするべきことはそいつらの信頼を裏切らず、自分のやりたいことを堂々としていく姿を見せることだ。

「気に入らないことがあればそれを言えば良い。もちろん、それを言えるだけの力をちゃんとつけろ。武力もそうだが、賢くなれ。知識をつけろ。狡猾で汚い大人たちを見て学べ。そしてお前たちはそんな奴らと同じになるな。」

あくまでも勉強の一環。
そんな大人たちとどう渡り合うかを考え続けることが必要なのだ。

「僕はしばらくこの学園の理事長代理だ。わからないことがあったらいつでも連絡すると良い。お前たちはまだまだ未熟者だからな。将来、僕が頼れる人材になってくれよ?」

さあ、授業はこれが最後だと告げると生徒たちは各々が顔を見合わせており、

あんなに好奇心旺盛だったり、感情に素直なこいつらが起立!と日直の号令で立ち上がり、

「「「「「ありがとうござました!」」」」」

深々と、そして大きな声で誠意だけが感じ取れる挨拶をしてきたのである。

そのことにユランとリリー、アレンが一番嬉しそうな顔をしていた。

僕はなにが?とキョトンとしてしまったが、でも悪い気分ではないのでそのまま教室を去ったのだ。

*****

「お見事でしたアーティス様!」
「なにがだよ?なんでそんな嬉しそうなんだ?」
「生徒たちがあんなにも感謝を示しているのにわからないんですか?!」
「当然のことを教えたまでだろう?」

むしろあんな程度のことでなにを感激しているんだと思って首を傾げてしまう。

「アーティは自分の凄さをわかってなさすぎるよね〜。」
「まったくだ。良い授業だったというのに。」

アレンとリリーは静かに笑いながらも僕についてくる。

「好き勝手生きるためにはそれだけ賢くなる必要がある。それだけのことなのにか?」
「悪意を正当なものとして堂々と教える教師なんていないよ〜?」
「悪意は使い方次第だ。誰になんと言われようと人間として社会で生きるためには必要なものだろう?」
「でもさ〜、それを理解してきちんと教えてくれる大人なんていないんだよ。」
「大人になんかなるつもりはないからな。僕は僕のためになることだけを教えただけだ。」
「ふふっ。そっか〜。」

アレンがなんで笑うのかわからないが、未来を担う人材が自分の生徒でしかも有力者になるのなら投資はしておくべきだろう?

そう言いたいだけなのに今日のこいつらはなんだか生やさしい目で見つめてきて気持ち悪い。

だから僕はそれ以上の発言をやめてしまい、やっと部屋に帰って引きこもり生活ができると重荷をひとつ捨てた気分で足取り軽く帰ったのだった。


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