もしも黒猫様が悪女に転生したら14

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程なくしてアレンの探索が終了し、本格的に古代兵器の元へ行く事になった。

勿論、時間帯は夜に限る。

昼間は僕にも授業があるし生徒たちの目が多すぎるからだ。

前もって寮生活のアレンに中からセキュリティを解除してもらって入る手筈を整えておき、

映像石(前世で言うところの監視カメラ)に録画されないようリリーの魔法で透明人間になった状態で地下まで行った。

「さてと、ここからは俺が案内するからちゃんとついてきてね。」

アレンをは魔眼を使ってどこにどんな罠があるかを全て言い当て、

それを避けて通るアレンの真似をしながら進むのだ。

「見事なものだな。魔眼もちということも珍しいと言うのに、それを使いこなしているとは…。」

リリーが褒めるほどの腕前のようだ。

当の本人は生き残るために使ってきた手段でしかないと言っているが、

「普通ならば身体への負担も大きいはずだ。魔眼は生まれ持つ力ではあるが、それを使いこなせるほどの魔力がなければあっても無駄なものだからな。」
「魔力も生まれつき他の人たちよりは多かったみたい。」
「稀有な人間だな。研究させてくれ!」
「絶対やだね!」

モルモットになんかなるもんか!とアレンが拒否するのも当たり前である。

忍び込んでいる過程だというのにこいつらはいつも通りだ。

他愛のない話しをしながらあっさり地下の扉の前にたどり着いてしまった。

まあ、下手に危険なことがあるよりマシなんだけどな。

有能な部下たちだと思っておくべきだろう。

「こっから先は俺もまだ入ったことないんだけど…。」

アレンが扉に手をかけても開かず、けれど鍵穴もないのだ。

これだけはお手上げなんだよ、とアレンが唸る事に僕はリリーへと視線を流したのだ。

それだけでリリーは「解析してみよう」と静かに扉へと魔法を使っていた。

…が、

「魔法……、しかもかなり古く、固有魔法に近いものを感じる。」
「どんな魔法なんだ?」
「ちょっと待ってくれ。」

リリーですら時間を要する魔法であるなら、他のものには開けられないだろうな。

むしろリリーですら開けられなさそうな雰囲気を感じる。

しばらく見ていればリリーが手を止めて振り返ってきたのだ。

「おそらく、特定の人物以外にしか開けられないよう複雑な魔法が幾重にも重ねられている。」

しかも古いくせに魔法の綻びは一切見当たらないらしい。

「この魔法をかけた人物はかなりの腕前だ。己の固有魔法と合わせて他の魔法を使ってるようだ。」

俺でもどうにもならんな、とリリーが言い切る事にアレンが「ここまできてそれはないだろ?!」と言っていた。

でもまあ、無理なもんは仕方ない。

「ですが特定の人物というのは…?古代兵器を動かせる人間となれば限られてくるのでは?」

ふとユランがそんなことを言うものだからアレンとリリーが静かに考察を話しだすのだ。

「確かに。だがかなり古いぞ?俺が古代兵器を目にしたのも何百年も前だったし。」
「じゃあ百年前を仮定したとして、その時代に古代兵器を動かせる人物って誰になるの?」

そこまで聞くと、僕はため息をついて即答していた。

「今で言うところの皇帝陛下くらいしかいないだろう?」

そのひと言に皆が僕を見つめてくるのだ。

そしてこの国の皇帝は血筋で選ぶものではない。

継承権は宝石眼を持っている人間であり、出生順に継承権の順位が決まる。

僕はその継承権第一位に立っていた人間ではあるが、返上した身でもある。

そもそも特定の人物しか開けられないとなれば、確率的に継承権を持つ人間という事になるが…。

ほんとうにそうだろうか?

むしろ継承権はあるが皇帝ではない奴が複数人現れた時代だってあったはずだ。

皇位争いが激化した時、継承権だけ持つものがこの扉を開けられると知れば皇帝でもないのに古代兵器を皇位争いに利用しようとする人間だって現れるはず。

そこらへんを考慮せずに特定の人物は定めないだろう。

ならば、

「推測でしかないが、この扉を開けられる特定の人物というのは時期皇帝陛下だと認められる人間だろうな。」

皇帝陛下だからあげられるわけでもないはず。

今の皇帝が武力=権力主義であれば古代兵器は悪用されるのだから。

この扉に触れて開けられる人物は、幾重にも重ねられた魔法によってこの国に相応しい皇帝であると認められた人間だけだと思う方がしっくりくる。

「であるならば、継承権を持つ者たちにこの扉を開けられるかどうか試す風習が残っていそうなものだが?」
「そうだな。でもその時代に必ずしも扉を開けられる継承権を持った人間が生まれるわけでもないだろう?」

要するに確率なのだこれは。
宝石眼を持っているからと言って皇帝に相応しいわけじゃない。

初代皇帝が宝石眼であったからというのがこの国の皇位争いに繋がってはいるが、

実際のところ宝石眼は魔力の強いものに現れやすい体質的なものだ。

つまり、魔力が強い宝石眼を持っていても皇帝に相応しいとは限らない。

そこを見落としてしまえば継承権を持つ宝石眼の人間が誰もこの扉を開けないという時代があってもおかしくない。

そのうち忘れられていく歴史の産物になるのだ。

僕の説明に3人とも納得したのか、けれどじーっと見つめられる視線に僕は眉根を寄せた。

「言っておくが僕が触ったからって開くとは限らないぞ。そもそも僕が一番開く可能性が薄い。」
「えー!わかんないじゃん?継承権は返上してても国の有事を裏から処理してるんだし。」
「それは利害の一致でやってるだけだ。国のためを思ってるんじゃない。自分のためにしてる事だぞ。」
「ですが、試してみる価値はあるのでは?」
「寧ろリリーとユランこそ試してみろよ。皇帝に相応しい人格者だと認められれば開くと推測できる扉だぞ?自由騎士に最強の魔法使い。そっちのほうがいくらか理解できる。」

僕が指さしながら言えば、二人して顔を見合わせて試してはみたものの…。

「開きませんね。」
「俺もだ。」

アレンは最初にしているから全滅。

いや、一応僕が残ってはいるが可能性があまりにもなさすぎる。

「今回は諦めよう。」

僕があっさり踵を返そうとすれば、ガシッと肩を掴まれていた。

「アーティも試してよ。それでも開かないなら諦めるけど、まだ可能性はあるよね?」

アレンがにこやかに、ここまできて諦め切れるかと訴えてくるのである。

それを見てしまうとため息だってつきたくなるというものだ。

皇帝なんて、僕が一番似合わない継承者だろうに。

そうは思ったがアレンの諦めきれない様子を見てしまうと、目の前で開かないことを認識させなければブーブー言われるに決まってる。

だからこそ仕方なく僕は扉の取っ手を掴み、ほら開かないだろ?と振り返ろうと思ったんだけど…

_____ガチャ。

それまでビクともしなかった扉の開錠音が聞こえ、次の瞬間には扉が淡く輝きを放ちながら勝手に開いていくではないか。

あんぐりとしていたのは僕だけじゃない。

マジか?!マジでか?!この扉はやっぱり継承権があるものに開くのか?!

なんて思ってパニクったくらいである。

…が、アレンは「開いたー!」と喜んで中に入ろうとして…

「べふっ!」

何かに遮られるように見えない壁にぶつかって、部屋の奥には入れなかったのだ。

「なに?どうなってんの???」
「これも魔法だな。認められたもの以外の侵入を妨げている。」
「つまり、扉を開いたアーティス様以外入れない部屋、というわけですか?」

そうなるな、とリリーが言う事に皆が僕を見つめてくる。

マジかよ。

アレンが当初狙っていた伝説級のお宝が今の今まで語り継がれるだけで、その存在が確認されないわけだ。

扉を開けられる人間がいなければ中に入れないのだから。

そして扉を開けてしまった僕はアレンのキラッキラした目に晒されつつ、目的のものを取ってこいと言われてるだけなのだ。

こちとら皇帝陛下になるつもりは一切ないし、目的は盗みだからな。

「あー、くそ。なんで開くんだよ。魔法が古すぎて誤作動でも起こしたんじゃないか???」
「それはないな。俺が手こずるほどの厳重かつ、緻密な高度魔法だ。」
「いいか?このことは口外禁止だぞ?僕は皇帝になんかなるつもりはないからな。」
「アーティス様のご意思は尊重いたしますが、私の目に狂いはなかったと知れて感激です。」
「黙れユラン。お前は逆に盲目的すぎなんだよ。」
「アーティ!早く!早く入って核を取ってきてよ!念願の二つとない伝説級のお宝!!!」
「わかった、わかったから。」

あー、もう!と思いつつ僕が部屋に一歩踏み出すと、

アレンが入れなかったのに、僕だけはすんなりと部屋の中に入れたのだ。

真っ暗だったので灯りを探してみるものの、どこにも電気回路を示すスイッチとかはなく、

仕方ないからアーティスの魔力を使って辺りに光の粒を撒き散らし、部屋の中を見渡す事になった。

魔法を常に使うという感覚がないからやっぱり戦闘向きではないのだが、

こうして意識的に使うことはできるので便利と言えば便利である。

そうして見渡す部屋は中央に据え置かれた魔法陣と、資料や本が並べられた壁に彩られていた。

古代兵器ってどれだ?!というところから始まったのだ。

それらしいものが見当たらない挙句、とっととアレンの欲しいものだけ持って帰ろうと思っていたのにうまくいかない。

舌打ちしながらも人の出入りが全くなかったとわかる部屋を見渡しながら僕は本棚や資料が散乱している箇所を見て回った。

ここに入れた人間はリリーが目撃した古代兵器の時代。

つまりは百年前と仮定した方がいい。

何もない部屋を見て資料を漁っていた痕跡は残っていた。

そして古代兵器の使い方を知ったとなれば、最初に調べるところは決まってくる。

散乱した状態で埃を被っている資料の前まで行き、

汚いものにはあまり触りたくないので、埃を息で吹き飛ばしながら服の袖を握って一枚一枚確認していく。

どうやら古代兵器というものは神代魔法と呼ばれる代物らしい。

全てが古代文字の資料ではあったが、事前にリリーの研究資料を読んでいたおかげて解読はスムーズにできた。

そして神代魔法とは、神々の祝福を受けた人間のみが使える魔法。

つまり古代兵器=神代魔法らしいのだ。

部屋の床一面に描かれている神代魔法の魔法陣は、認められた使い手の意思。

つまりはどんな兵器が欲しいのか、そのイメージを具現化すると言うチート的なものだった。

想像したものを現実にできる力。
それが古代兵器だったのだ。

「こんなものが極悪人や独裁者の手に渡れば世界は滅ぶな。」

だからこそあの扉があるのだろうとわかる記述だった。

あの扉を開けられる者しか出入りできない部屋というのも頷ける。

従者であろうがこれは知っていいものではない。

正しく使える者でなければ、悪用されるしか末路がない。

まあ、何らかの方法でこの魔法陣と効力を知ったとしても、神の祝福ってものが与えられていない人間には使いようもないが…。

使える人間を探し出せばいいだけ、とも取れる。

王に相応しい器の人間を利用するだけで天下を取れる、と思う人間の方が多いだろうに。

だから古代兵器は今の今まで扉という一枚の、けれどリリーすらどうにもできない魔法で守られていたのだろう。

「なるほどな…。とんでもないもんを先人たちがどうにかしようとした結果だってことか…。」

だからって何で僕に見せるのか…。

こんなこと知りたくなかったんだけどな、と思いつつもアレンの欲しい古代兵器の核ってものが何なのかをさっさと調べていたんだが、

「………」

古代兵器は単純に、この床の魔法陣による神代魔法で己の想像物を具現化するもの。

そして発動の条件には神の祝福とやらが必要で、それを得るためには魔法陣に触れたらわかるとしか記載がなかった。

祝福を受けるべき人間であれば、触れるだけでいいと。

そして祈るだけでいいと記されていたのだ。

めちゃくちゃふわっとしすぎていて、なんの根拠も理論もない資料にイラッとしたのは言うまでもない。

だがここは前世と違って当たり前にファンタジーな世界である。

仕方ないので床に記されている魔法陣にそっと手を触れてみたのだ。

何も発動しなければ神の祝福なんて僕にはなかっただけのこと。

アレンには悪いが部屋に入れる資格はあっても、神ってものには見放されたよって言える。

そう思っていたのに、魔法陣は閃光を放って部屋全体を包み込み、

僕の頭の中には声が落ちてきた。

『希みは?』

耳で聞いているのではなく、直接頭に響く柔らかな声に僕はまたしてもため息をついてしまう。

神の祝福ってものがこれで証明されたのだから。

こんなことで、何の根拠もないのに根拠になるだけの不思議な現象を起こされたらため息だってつきたくなる。

もういい。
こうなったら目的を果たそうと、僕は静かに答えていた。

「古代兵器の核。」

静かに言えば、頭の中で響く声が『是』と言ってきて僕の頭の中に魔法陣を刻み込んできたのだ。

『古代兵器の核とは、選ばれし者の魂そのもの。』
「………は?」
『この魔法陣を扱える人間そのものが核となる。』

そこまでの説明に僕は顔を引き攣らせていた。

つまり使い手そのものが古代兵器の核となる、と言われているのだ。

魔法を行使する魔法使いと同じ。

魔法使いは己の魔力を対価にして魔法という現象を引き起こすが、

古代兵器の場合は神に認められ、神の祝福を受ける者にしか現象を起こせない魔法陣を起動させられる。

無から有を作り出せる力を。
想像を現実にする力を。

魔法使いにとっては己の魔力が核になる。
とすれば、古代兵器の核は神に認められた使い手そのものとなると言いたいのだろう。

これじゃあお宝どころじゃない。

なにか宝石みたいなものをイメージしていたというのに、僕自身が核だと言われたのだ。

嬉しくないというか、絶望的すぎる知らせに僕が眉根を寄せていると、

『嬉しくないのか?』
「当たり前だ。」
『何故だ。』
「何故だと?」

頭の中に響いてくる声が誰のものなのかは知らないし、神だというなら勝手に言ってろとも思うのだが、

「これをアレンにどう説明しろと?僕が核でしたって言えっていうのか?皇帝陛下になる気もないし、古代兵器になんて興味もない。アレンとの取引でここにたどり着いただけの僕に、こんな魔法陣なんて重荷以外のなにものでもない。」

勝手に頭の中に魔法陣まで刻まれてしまった。

つまり僕は、普段からこの魔法陣を使おうと思えばいくらでも使えるということだ。

魔力が必要な魔法陣ではない分、使い勝手はいいだろう。

けれどそれをホイホイ見せて仕舞えば、周りの人間たちはいつか気づくはずだ。

無から有を作り出すことができるというあり得ないことに。

そして思うだろう。
自分のものにできれば何でもできるんじゃないかと。

リリーを抱えているだけでも国のバランスは揺らいでいるというのに、そこに古代兵器もありますよーなんて提示できるかよ!

『神の祝福を受けし其方にとって、其方が望まずとも国の命運は其方が握る。人脈、人望、智略、武力。それらの使い方を其方は誰よりも上手く使えるはず。この魔法陣は其方の補佐であり、全てでは非ず。』
「ほざけ。要らないものは要らないんだよ。」
『否。継承したことを取り消すことはできない。』
「マジでふざけんな!」

勝手なことばっかり言いやがって!

「そもそもお前は何なんだよ!」
『神の代行者。魔法陣そのもの。其方を補佐する義務を今預かったもの。どれでも好きに呼ぶが良い。』
「だから要らないって言ってるだろ!」

クソめ!
ただわかったことは継承されたこの魔法陣は要らないから返上できるものではなく、

この声は今床に描かれている魔法陣そのものだということ。

見て覚えたところで使えない魔法陣ってやつは、意思を持って認めた使い手にしか己の力を使わせないということだ。

『否。継承されたものは…』
「返上できないんだろ。わかってるよ!」

文句くらい言わせろっつーの。
真面目か!

「じゃあこの部屋の資料や本はなんなんだ?」
『勝手人間が私を作るために研究した仮定だ。』
「なるほど。そんなもの残しておいていいのか?」
『よくはないだろう。けれどそれを良しとするシステムでこの部屋があるのだろう。』

なるほどな。
入れなければ見れないし、入るためには資格がいる。

その資格も誰かに決められるものではない。

王としての素質があると認められなければ開けることも不可能なのだから。

「あの扉はお前が繋がって識別してるのか?」
『是。正確に言えば私と直接繋がっているわけではない。私の意思を魔法に組み込んだ扉となっている。』

つまり魔法陣さんが二人いるようなものか。

ただあの扉は魔法陣さんが王の素質を見分けるための意思であり、本体はこっちってだけか。

「選ばれたもの以外に入れないとは言うが、何らかの方法で入られる可能性はないのか?例えば天井を突き破るとか。」

部屋を見上げて問いかけると、

『是。それは可能だ。』

だよなあ。
魔法陣さんの意思はあくまでも扉にある。

つまり魔法陣に認められず入ることは不可能じゃない。

真上に学園があるものの、ぶっ壊せば物理的に入ることは可能になる。

ただそれでも魔法陣が使えるわけじゃない。

…が、この部屋の資料から魔法陣の作り方は学べる輩は出る可能性が高い。

今後のことを考えるとそれは避けたいところである。

「仕方ない。出番だぞ魔法陣さん。」

想像を現実にする力であるのなら、と僕が声をかけると『是』と響いてきた。

『希いは?』

その問いかけに僕はひと言。

「この部屋の消滅だ。」

魔法陣さんは僕の希いに応えてくれた。

僕の頭の中に直接働きかけてくるほどだ。
僕の想像したことを言わなくても理解して現象に起こしてくれる。

部屋の消滅は僕の思い描いていた通り、床に描かれた魔法陣以外の全てを無に返した。

スッキリさっぱりした部屋を見渡して、本当に末恐ろしい力だなと思う反面、

これ滅茶苦茶チートなんじゃないか?とも思ったがそれを考えるのは後だ。

『扉と魔法陣は残すのか。』

ただ僕の想像を具現化できる魔法陣さんのくせに、その意図まではわからないらしい。

「余計なものなんてなくていい。この部屋は王の資質を見極めるために今後生まれてくる人間には必要だ。誰が何と言おうとな。」

人間のエゴでねじ曲がる時代が来るかもしれないが、選ばれし王は人間が決めるものではないと伝えていくことは重要だろう。

その為にも扉の仕掛けとこの部屋の魔法陣だけは残しておく必要がある。

触れるだけで資質を持ったものなら起動するのなら、何もない部屋で床一面に広がる魔法陣だけを見れば何か手がかりを探すはずだ。

その過程で魔法陣に触れるという簡単なことは誰だってする。魔力を注げばいいのかと簡単に考えるだろうからな。

触れないならそれでも構わない。

単純に古代兵器を得るための部屋ではなく、ここは王の資質を持つものしか入れない部屋にしたのだ。

魔法陣に触れたらチート能力を手に入れられるが、そうでなくても国家機密のような資料の保管には最適の部屋になる。

この部屋であれば僕はぼっちでのほほんと引きこもり生活ができるってことでもある。

まあ学園の地下という立地がすこぶる嫌なので使わないがな。

でも自分以外入れない部屋なんて最高である。

今後の王もまた、そういう一人の時間が必要な際はこの部屋の使い方を考えるはずだ。

それらを説明すると魔法陣さんは納得した様子だった。

『私が認めた王なだけある。』
「うるさい。そういうのはいらん。」

何が王だ。
絶対にお断りだ。

僕は部屋から出たくないし、なにもしたくないんだ!!!

余計なものを持ってしまったが、使い方さえ誤らなければ問題はないだろう。

ていうかそう折り合いをつけるしかない。

国を支配しようとか統治しようとかそんな面倒でくだらないことなんかするつもりはないし、

魔法陣さんの使い道は僕が食べたい前世の食事や読み物を出してもらう程度にしかならなさそうだ。

うむ。それならとても便利である。

いちいち料理するのも別にいいのだが、ポンと無から有を作り出せる魔法陣さんの不思議な現象には潔癖とかそんなものもまるで無意味な産物なのだから。

あとはこのことをどうやってアレンたちに説明するかである。

素直に全部言うのはいい。
信用はできる奴らだ。

けれどあまりにも国を脅かす存在になってしまった僕のことをそうホイホイ話すわけにもいかない。

だからって嘘をつくにしてもなんにもないしなあ。

古代兵器の核を魔法陣さんを使って、それっぽい宝石を生み出すことは可能だけど、

逆を言えば古代兵器を動かせるほどの魔力が蓄積されている宝石でないと信じてはもらえないだろうし、

そんなものを作り出してしまったら、どんなことに悪用されるかわかったもんじゃない。

アレンはただ核が何か知りたいだけなのだ。

下手に誤魔化して余計なものを生み出してしまったら、誰にどんなふうに渡っていくかわからない石になる。

争いを呼ぶかもしれない可能性を考えると、あいつらにだけは正直に話そうと決めて部屋を出ていたのだった。


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