もしも黒猫様が悪女に転生したら11
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あれから古代兵器のことを調べることを進め、かなり情報がまとまってきた。
アレンの集めた資料はどれも的確なもので、やはりこいつは情報収集能力だけはピカイチだということもよくわかった。
「まとめると、古代兵器が隠されている…または保存されている場所はこの国の都市唯一の王立学園の下。」
「しかも辿り着くにはあらゆるセキュリティや魔法で施された罠が多く存在するな。そもそも学園側も学校の下に古代兵器が眠ってるなんて知ってる人物がいるかさえ疑わしい。」
「セキュリティや罠に関しては任せてよ。多分入口も俺ならわかる。」
「わかったとしても学園に侵入することすら難しいですよ?この王立学園は世界的に有名な魔法と剣を学べる知識の宝庫と言われています。そして多くの偉人を排出しているんですから。」
そう、場所はわかったのだ。
古代文字さえ読めるようになれば解読は難しくなかった。
だが、肝心の古代兵器がどんなものなのかまでは資料に記されていなかった。
こればっかりは場所の特定のみにこだわって情報を集めたアレンの手際によるものだから仕方ないのだが。
しかもアレン曰く「どんな古代兵器かわかっちゃったらロマンもクソもないじゃん!」とのこと。
そんなロマンなんて捨ててしまえ!
そうは思ったが、場所さえわかれば今は眠り続けている兵器だ。
どんなものなのか分からなくても使う気はないから確かに後回しでも問題はないが、
何かあってからでは遅いから知っておけるものは知っておきたかった。
まあいい。
場所がわかって、セキュリティや罠に精通している人間がいるのだ。
あとは学園に入れたらそれでいい。
そこまではわかるが、学園のセキュリティまで突破して古代兵器へと辿り着くのに時間はどれくらいかかるか。
アレンに頼んで学園の見取り図を手配してもらったがあまりにも広すぎるのだ。
入り口の特定だけでも時間がかかる。
なので、
「僕とアレンを王立学園に体験入学させてくれないか?一ヶ月くらい。」
わざわざ忍び込むより学園の生徒として入った方が楽だなと結論づけたのだ。
勿論、真面目に学ぶためではない。
生徒であればあらかた学園の中は自由に行動できるのでアレンに入口を探してもらうために一緒に入学したいだけだ。
ユランとキブリーは顔が割れているし、そもそも学園に入れる年齢でもないしな。
僕らが潜入して入り口の特定をし、日付を合わせてみんなで乗り込もうということだ。
なので皇帝陛下に直談判しにきたのである。
「また急だな。」
「アレンとの取引の内容で、どうしても学園に入らないといけない事情があるんだ。」
聞きたいか?と問いかけると絶対やめてくれと頼まれてしまう。
まあわかってて聞いたんだけど。
古代兵器を見つけに行くなんて言ったら陛下は卒倒するだろうしな。
そんなものを見つけてしまえば他国に言い訳すらできないだろうし、
黙秘し続ければいいことだが「知ってしまった」ということが悩みの種になりかねない。
「ちょうどいい。学園側からもお前を名指しして入学しないかという案内状が来ておる。」
「は?なんで?」
「継承権第一位の人物だ。悪女という噂はどうであれ、時期皇帝陛下になりうる人物が学園に通っていたとなれば名声は上がるだろう?」
「つまり政治に利用したいと。気に入らないな。」
「表向きはその理由だ。」
「表向き?裏の事情があるのか?」
「ああ。最近、学園の質が落ちたという噂を聞いたことは?」
「新聞に載ってることなら知ってる。」
なんでも王立学園の生徒が他校との模擬戦で惨敗したとか、
入学に必要な偏差値が年々落ちているとか。
僕は足並み揃えることを当然としている学校が一番嫌いなので、クソほども興味がないが。
「概ねその情報は正確だ。」
「生徒の質が落ちていると。」
「ああ。だから学園側は君を名指しで講師として来てくれないかと言っているんだ。」
「生徒じゃなく講師?なんでまた?」
「些細な情報から賭博事件のことを解決した話しが街で広がっていたのだ。姿は変わっていてもアーティス・べレロフォンだと突き止められないことはない。」
「なるほど。でもそれだけで?」
むしろ褒められたことではなかったはず。
それで講師に、とはおかしいだろう?
「城の中では沢山の人間がいる。お前の博識さは人伝いに伝わっているのだ。」
主にジーナが主犯格だな、うん。
やっぱあいつは解雇するか。
口が軽すぎるところが最悪だ。
「しかもキブリーまで味方につけて、なんなら馬鹿呼ばわりときた。私には止められない噂になっているのだ。」
「なるほどな。ジーナは解雇しよう。」
「ジーナを解雇しても同じだこれは。」
つまり女は噂好きで口が軽いという性質はどの世界でも同じってことだな。
同じ女としてはもう少し慎んでほしいと思うが、こればっかりは仕方がない。
でもまあ好都合だな。
講師として入れるなら、メリットは生徒として入るより大きい。
講師にしか知らされないこともあるだろうし、講師しか入れない場所だってあるはずだ。
生徒としてアレンを入れて潜ませつつ、僕は講師として入ってアレンが出入りできないところを調べられる。
「いいだろう、その話しに乗ってやる。でも期間は僕が決める。ずっと講師なんてするつもりはないからな。」
僕の言い分に、陛下もそれで了承してくれた。
ていうか学園側としてはどんな形でもきてくれるならそれでいいと言っているらしい。
切羽詰まってるんだな。
「話しは通しておく。いつから行きたいか希望はあるか?」
「できる限り早めで頼む。明日からでも構わないくらいだ。」
「わかった。追って連絡する。」
こういうとき物分かりがいいというか、僕の好きにさせてくれる陛下ってありがたい。
だから協力してやるんだけどな。
次の皇帝陛下がこうとは限らないっていうのが残念極まりないがな。
なんて思いつつ、部屋に戻った僕はことの経緯をみんなに伝えて準備を始めたのである。
「アーティが講師か。それは面白そうだな。」
「リリーが生徒なら話しやすいんだけどな。」
「アーティス様!くれぐれも!生徒たちに対して暴言はやめてくださいよ?!世界中から集まった生徒たちの中には時期国王や宰相になりうる人物といるんですからね!!!」
「僕をなんだと思ってるんだユラン?」
「アーティと学校かあ〜!楽しみ〜!」
「僕は生徒じゃなくて講師だからな。お前、下手に馴れ馴れしくするなよ?」
そんな会話をしつつ、準備が整った僕らは一週間後に学園へと赴くことになった。
講師である僕は寮生活なんてしなくてもいいが、アレンは生徒として入るために短期間でも寮生活になるらしい。
まあ、夜の学園に忍び込んで探索するのはアレンにとってお手の物だろう。
ただ、
「アーティのご飯が食べられないってこと?!」
全くもってどうでもいいところで落ち込んでいたがな。
僕だけは帰って二人に報告しつつ、どうしていくかの方針を決められるのは好都合なんだが。
「寮生活なんて嫌だー!俺も一緒に帰りたいッ!!!」
「無理言うな。食べたいものは作ってやるから我慢しろ。」
「ほんとに?!その約束守ってよ?!お昼くらいはアーティの手料理がいい!」
「わかったから。」
学園でキッチンを使えるかはわからんが、まあ帰ってきた夜に弁当を作っておくことはできるだろう。
アレンが使い物にならないとこの潜入は意味がないからな。
食べるものを用意するだけでいいなら簡単だと思っておこう。
そうして僕らは同じタイミングで新しい講師と体験入学の生徒として、王立学園に赴いたのだった。
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