ロリコン偏愛撲滅運動
prologue
あの、何か用ですか?
登校中の朝、やけに視線を感じるのはいつものこと。
振り返れば、曲がり角の壁際にはあからさまにスッと隠れる人影がいる。
毎朝毎朝いい加減にして欲しいと何万回思ったか知れない。
気づかれてないと思ってるあたりが真面目にうざい。
軽く睨みながら、生まれつきふわふわの栗色の髪をいじっていれば…
「姫(ヒメ)ちゃん、君はなんでそんなにかわいいの?」
顔をのぞかせて、今日も今日とて相変わらず変わりばえのない言葉を落としてくるそいつは、
あたしの家の目の前にあるマンションに住む住人であり、あたしのストーカーである。
癖っ毛の黒髪はいつ美容院に行ったんですか?って聞きたくなるほど伸ばしっぱなし。
長い前髪の合間から時折見える瞳はいつだって恍惚としている。
ヨダレすら垂らしてそうな勢いで、今日も今日とてあたしのストーカーは携帯片手に人権って言葉を知ってるのか聞きたくなるくらいにシャッター音を響かせるのだ。
「あの、壁から覗くのやめてもらえません?怖いです。」
いつから目をつけられていたのかなんてわからないけれど。
小さい頃はよく遊んでもらったお兄さんだった。
12歳も歳の離れた人だけど、子供好きであたしは懐いてた記憶がちゃんとある。
中学の頃は家庭教師として受験勉強にも付き合ってくれたし、基本的に無害で優しい人という印象が強くあるのだが。
「姫ちゃん、今日も制服姿かわいいね。まな板感が最高だよ。」
「馬鹿にしてます?純(ジュン)さん。」
壁際から身を出して、歩み寄ってくる彼はラフな格好でスリッパ履いてて。
靴くらい履き替えろよって思うくらいには自分の身なりに気を使わない。
175を優に超えた身長だって、猫背気味だからあんまり高く思えない。
まあ、148しかないチビが言っても説得力はないけれど。
ていうか、まな板って言ったなこの人。
高校生にもなって身長は愚か、胸の成長も乏しいことはあたしのコンプレックスだってのに。
しかも高校の制服着てるのに未だ中学生にしか見られない幼児体型であることは嫌でたまらないのに。
「何言ってるんだ。褒めたんだよ。僕は豊満な胸になんか興味ない。」
「いや、そこまで聞いてませんけど。寧ろそれはそれでどうなんですか?男として。」
「飴ちゃんいる?」
「あたしが飴に釣られると?」
「姫ちゃんの好きなストロベリーチョコ味だよ?」
「ありがたくいただきます。」
差し出された棒付きの飴を即座に受け取りながら、あたしはぺこりと頭を下げていた。
そんなあたしに純さんは撫でこ撫でことあたしの頭を撫でてくるのである。
いかん、ついつられてしまった。
これでも警戒は怠ってなかったのに。
「で、では…!あたしは学校に行きますので!これ以上ついてこないでくださいね!!」
ハッとして飴をポケットにしまい込み、背を向けると
「学校まで送るよ姫ちゃん。」
純さんは当たり前に言ってあたしの背後に立つものだから、
「いりません。あたしのこと、いつまでも子供扱いしないでください!」
「そんなことしてないよ。僕にとって姫ちゃんは永劫不変の天使だよ?」
「病院、行きましょう?」
当たり前にそう言って、あたしを見下ろしてくる純さんは。
長い前髪の中からその美麗な顔を浮かばせる。
垂れ目がちな黒目は甘々として優しげで、鬱陶しい髪を整えて身なりもきちんとすればモテる要素は満載なのに。
今日も今日とて純さんはあたしにどんな妄想を抱いているのかと聞きたくなるような言葉を落としてくる。
「ていうか、マジで警察呼びますよ?」
「僕の罪は姫ちゃんだけのモノだよ?」
意味不明すぎる。
ただわかるのは、純さんが生粋のロリコンであることだけ。
あたしは高校生にもなって幼児体型のAカップで。
未だに中学生と間違われるくらいの幼い顔に、身長だ。
ママは豊満な胸に色気ある顔立ちをしてるのに、受け継いだ遺伝子は元々の艶やかな栗色の髪くらい。
大人びた髪型が似合わないから未だに幼稚園の時から変わらないツインテールだし、
どんなに敬語を使っても礼儀正しいお嬢さんね?としか言われない。
クラスメイトにだって食ってかかる勢いで反抗するものの、よしよしと頭を撫でられて終わる。
可愛がられることに不愉快感はないけれど、あたしの目指すママのような大人の女性は程遠くて。
そもそも女子高生にもなって恋愛対象として見られないこの姿があたしのコンプレックスなのに。
ロリコンにしかモテないとか、ありえないだろう。
「姫ちゃん、迷ったらいけないから手え繋ごうか?」
「あたしは小学生か?!行き慣れた道で迷子になるわけないでしょう?!」
「わからないよ?姫ちゃんほど可愛かったら誘拐とか….」
「されませんから?!」
あたしに、……いや。
幼児性しか見えないあたしに、盲目すぎる純さんは今日もウザいし重い。
あたしのストーカーはロリコンの悪質な男なのである。
1.ステータスを誇示するものに興味を示さない
純さんを振り切って登校するのがあたしの日常だ。
ロリコンでなければそれなりにいい人であるのに、毎朝毎朝この調子。
純さんに声をかけてしまうと時間があっという間に過ぎて遅刻寸前っていうのも日常で。
ギリギリセーフでホームルームを受けるのも日常。
大きく溜息をつきながら、窓に映る自分の姿にはもっと溜息が落ちる。
栗色の髪はおろしてみても幼くて、幼児性しかない顔立ちは大人びることなんかない。
お人形と言われ続けてきたこの大きな瞳が原因なのか、もっと別のところにあるのかもわからないけど…。
アンバーの瞳の色は気に入ってるのに、何も生かされてない。
コンプレックスの塊でしかないこの姿はあたしが何よりも嫌悪するもので、純さんが何よりも尊ぶもの。
男の人に好意を抱かれたことなんてないあたしからすれば、嬉しい想いもあるっていうのに…。
「はあ……」
ロリコンだから、と言われてしまえば自分の魅力云々ではないのだと思い知るのだから複雑。
寧ろそれはあたしのコンプレックスだ。
こう見えて、恋には憧れるしモテたいとだって思う。
だって年頃の女子高生だ。
誰もが彼氏の話しや、片想いに話を咲かせることを羨ましいと思う。
ただ、あたしは好きな人ができた云々よりも自分の見た目で男の人を諦めてる部分があるからして…。
どうにも、恋愛の類には警戒するし疑いを持って見つめてしまう傾向がある。
それもこれも、純さんというロリコンを知っているせいで。
「姫〜、なあに暗い顔してんの?まーた、ストーカー?」
クラスの女友達が休み時間。
声をかけてくれることに、あたしは言うまでもないと肩をすくめていた。
「まーったく、懲りないねえ。警察行けばいいのに。」
「そーなんだけど…。お世話になったし、結構いい人なんだよ。」
今朝貰った飴を舐めながら、あたしは何度ついたかしれない溜息を零してた。
そう。基本的にはいい人なのだ。
面倒見が良くて、どんな我儘を言っても怒らない。
身だしなみに気を使わない人だとしても、不清潔なわけでもない。
なんならあたしは子供の頃、将来は純くんのお嫁さんになる!とか言ってたらしい。
今じゃ到底考えられないし、あり得ないことだ。
「ふうん?あたしから見ればもっさりしてて暗いし変質者にしか見えないけど。」
そう言う彼女が窓の外を眺めるもんだから、あたしも視線を向けてまた溜息。
校門の陰にコソコソと純さんがこっちを覗いてる姿はもう見慣れた光景と言っていい。
最初こそあの変質者は誰だと騒ぎが起こったが、中学の頃からあたしを知ってる連中が当たり前にあたしのストーカーだと説明して終わる始末。
さすがに学校の前でウロウロしてたら警察呼ばれることもあったみたいで、純さんは朝のホームルームが終わると帰っていく。
「それに比べて、今日も華臣(ハナオミ)くんたちは格好いいよねえ。同じ高校生とは思えないよ。」
目の保養を探すように視線を動かした彼女は、当たり前に遅刻してくる二人組の男子生徒を見下ろすのだ。
いつも二人で連んでいる彼らは所謂、不良くんたちで。
見た目もそれなりに派手。
派手だけど浮いてる派手さではなく、ちゃんと着こなされた派手さ。
純さんはいい大人であるはずなのに、彼女が言う通り。
彼らの方が余程大人びて見える。
「ストーカーでもあれくらい身なりが整ってたらまだ許せるんだけどねえ。」
イケメンならなお良し!と彼女が言うことには、なるほど一理ある。
そもそもあたしは純さんのこと、嫌いなわけじゃないし。
コソコソ見られるくらいなら堂々と隣を歩いてほしい。
でもあの見た目の人を連れて歩くのは些か…、ううん、絶対嫌だ。
そもそもあたしが男の人をマトモな目で見れなくなったのは純さんのせいなのだからして。
根源に変わって貰ったらいいんだよ、うん。
それを思い立った放課後。
当たり前に校門から出ると、背後から距離を開けてついてくる純さんなんてバレバレ。
あの人、本当に隠れる気あるのかと思うくらいモロバレ。
無駄に身長も高いし、なのにモッサリした姿だから余計に目立つ。
でも今日は、そんな純さんを振り切ることなく立ち止まって振り返っていた。
「あの、純さん。ちょっといいですか?」
いつもの行動をしないあたしに、純さんはあからさまに電柱の影でビクついていた。
だがしかし、そんなことはどうでもいいのだ。
「取引しませんか?」
「へ…?」
恐る恐る顔をのぞかせてくる純さんだが、一度たりともその顔をマトモに見たことはない。
子供の頃に見ていたのかもしれないが、覚えてないし。
「もうストーカーやめて欲しいんですよね。」
ハッキリ言いながら近寄れば、何故か純さんのほうが泣きそうな雰囲気でプルプルしている。
一応言っておくが、あたしはチビでこの人はノッポだ。
そして見た目からして、中学生に泣かされている変質者なんて絵柄になるこの状況。
本当に苦痛すぎる。
「あの、泣かないで貰えます?泣きたいのこっちなんですけど。」
「だ、だ、だって姫ちゃんが……っ!僕の生き甲斐を奪おうとするからっ!」
「いや、それはそれで発言ヤバイですから。ちょっと黙ってくれませんかね。」
人の話しは最後まで聞こうと教わらなかったのかこの人は。
ていうかなんであたしが大の大人にこんな説教じみたことしなきゃならんのだ。
「そうじゃなくて、あたしを付け回すなら一緒に帰りませんかってことなんですけど。」
「え…。」
「ただし、人間らしい格好してください。」
頼むから。スリッパじゃなくて靴履いて欲しいし。
あからさまに寝る格好だろってわかるダルンダルンのジャージとTシャツもやめてほしい。
そして何よりもその鬱陶しい髪をどうにかしてほしい。
「身なりを整えてくれるなら朝と放課後。あたしの隣を歩かせてあげますから。」
どうでしょうか?と見上げると、純さんは言葉もないと言うように。
それこそ大きく何度も、身体を上下に揺さぶるように頷いていた。
怖えよ…。
でもまあ、これで取引成立だ。
そう思って帰宅したものの、あたしはその夜。
自分の部屋でふと浮上したことに悩んでいた。
純さんのセンスって………あるのだろうか?
だっていっつもあのだらしない格好しか見たことがない。
それを直せとは言ったけれど、服のセンスから髪型まで時代遅れのようなスタイルだったらどうしよう。
絶対歩きたくない…。
でも取引にお洒落じゃないとダメですよ、なんて言ってないし…。
「どうしよう…。明日が怖すぎる………。」
リーゼントとか?それともパンチパーマ?!
うわあ!ないないないっ!!!
ジーンズでもパッツンパッツンとか?
シャツインとかしてたらあたし泣くぞ?!
可能性としては大いにありうる。
ていうかいい大人なんだからもっとステータスのあるもん身につけろよな?!
ブランドのベルトとか、ちょっといい車とかあるじゃん?!
ママもパパもそういうものは目につかない程度には身につけて社会人やってんのにさ?!
28にもなる男が何故にノーブランドジャージ姿よ?!
腕時計もしてなけりゃ、靴持ってんの?って聞きたいレベルとかありえないだろう?!
「あああー〜っ!失敗したーーっ!!!」
取引条件をちゃんと書き出して考えるべきだった。
思いつきで実行したあたしの馬鹿野郎め!!!
部屋の中、ひとりで眠れぬ夜を過ごしながら。
悪い可能性ばかりを考えて悶々としてしまってたあたしは、
当たり前にやってくる朝に、いつもの時間。
玄関から恐る恐る顔を出していた。
目の前にはいない。
左右確認。上下も安全。
ストーカーは、いなかった。
考えてみれば、夕方に言ったことだ。
実行するには店ももう閉める時間帯であったからして、今日の朝から動くのだろうことをすっかり考えてなかった。
今のうちにお洒落重要!って言えたらいいんだけど、いつも当たり前に背後にいるストーカーがいない。
居ないってことはつまり、この時間を我慢してあたしの条件に奮闘してると考えていいのだろう。
「超怖いよ〜……っ。」
一体どんな姿で現れるのか。
あたしはストーカーされるより憂鬱な気分で学校へ行き、遅刻してこなかったことをみんなに驚かれ。
なんなら今日は校門にも純さんが居ないことにどうした?!と詰め寄られてしまう始末。
なんであたしと純さんをセットで考えてんだよこいつら。
あの人ストーカーなんですけど?!
友達じゃないんですけど?!
なんなら彼氏でもないってのにさ!!
もうほんと、あたしの人生は純さんによって散々だ!
それでも不貞腐れながら昨日のことをかいつまんで説明し、みんなしてあたしが徹夜で悶々としてた純さんのセンスについて話し合うんだから堪らない。
そいつを連れて歩くのはあたしだからして、変な格好してたら面白いのにと話題にされるんだ。
これ軽くいじめだろって思うくらい腹立たしいったらない。
そんなこんなで学校も終わり、当たり前にやってきた放課後。
ストーカーの居ない1日は平和なもんだと思ってたけど、ある意味疲れた。
あたしよりも周りが純さんありきで考えてたなんて事実、知りたくもなかった。
増え続ける溜息を今日も落として校門から出ようと歩いてたものの、
「あの、誰か待ってるんですか?」
「ていうか名前教えてくれませんか?!」
「あたしは連絡先!」
「あ、ずるーい!!」
何故か女子生徒がこぞって校門前に集っており、その中心では顔を真っ青にしているイケメンが立ってるのだ。
誰かを迎えに来たのか、それとも道に迷ったのかはわからないけど可哀想に。
そんなことを思いつつ、イケメンって得すると思ってたけど性格が気弱だとそうでもないのかなって。
どうでもいいこと考えながら校門から出たんだけど、
「あ、姫ちゃん!!」
聞き慣れた声に思いっきりビクついて硬直してしまう身体。
頭に浮かぶのは昨日散々考えただっっさい格好ばかり。
だからこそ、恐る恐る振り返ってたんだけども…
「酷いよ、知らんぷりするなんて。」
「…は?」
そこには先程、女生徒たちの中心にいたイケメン様がいたのだ。
いや、ちょっと意味わかんないんだけど?
伸ばしっぱなしだった癖の強い黒髪は肩に触れるあたりで切られており。
前髪はセンター分けにされ、癖っ毛を生かしたスタイル。
多分、誰もが似合う髪型ではない。
大抵の人が顔を丸出しにするこのスタイルでお洒落だって思える人は少ない。
それを当たり前にやってのけてる純さんらしいその人は、ほっそりとした顎のラインとか、色白の肌とか目立ってんのにまるで失敗感がない。
寧ろ成功例ですと雑誌に載ってる人のレベルで似合ってる。
顔なんかその長い前髪で見たこともなかったけれど、オープンにされた顔立ちは女性的な繊細さを兼ね備えたミステリアスな雰囲気。
垂れ目の甘々とした黒目も優しげを残しながらも、何を考えてるかわからないようなぼんやりさも含まれていた。
しかも格好はスキニーにTシャツに、ベスト。
お洒落上級者ですってひと目でわかるくらいには素晴らしく似合ってる。
モノクロで統一しつつも、シャツだけはカラーを入れて遊んでる感じがものすごくお洒落だ。
だからこそ、これがあのモッサリ変質者の純さんだとはどうしたって思えない。
「あの…、どちら様ですか?」
「えええ?!酷いっ!姫ちゃんが身なり整えたら隣歩かせてくれるって言ったんじゃんっ!」
大の大人が喚きながら、
「もう散々だ…。姫ちゃんには気づかれないし、女の人いっぱい寄ってくるし。だからこんな格好したくないんだ…。」
ぐすんと肩を落とし、顔を隠すように手で覆ってしまうイケメン様。
彼の言ってる内容はあたしが昨日、確かに純さんに言ったものだ。
あの時周りには誰もいなかった。
そこまで考えると、
「えええええええっっっ?!!純さんなの?!嘘でしょ?!なんでそんなに無駄なイケメン?!」
「無駄っつったな。今ハッキリ無駄って言ったな?」
「だって…!ええええええええっっっ?!!あたしはてっきり時代錯誤の格好してくるとばかり…!」
「姫ちゃん、僕にどんなイメージ抱いてんの?ねえ?これでも今時男子なんですけど…。」
一応28だからね?と純さんが言ってくることにはもう言葉もなかった。
「だって純さん!28にもなってあんなモッサリしてるし小物も車も大人としてのステータスまるで皆無だったじゃないですか?!」
「ああ、うん。興味ないんだそういうの。」
純さんはアッサリと言い放ちながら、背後で未だきゃあきゃあ言ってる女子生徒の声にビクついていた。
「それに、こんな格好したらいっぱい声かけられんのわかってたし…。ステータスの誇示なんてしたら尚更だ。」
純さんは言いながら、取り敢えず帰ろうと歩き出すもんだからあたしも大人しくついていっていた。
「でも姫ちゃんの隣歩けるなら、しんどいことくらい我慢する。」
そう言ってあたしを見下ろし、はにかんでくるイケメン様。
いや、もう、変わりすぎててトキメキもないわ。
同一人物とは思えない。
この人がストーカーしてたとか真面目に考えられない。
でも、
「朝の時間潰しちゃって姫ちゃんの写真撮り損ねたのはやっぱ痛かったけど。」
そう言って携帯を手に持ち、これ見よがしにあたしに向けてシャッター音を響かせてくることには純さんだと認識しました。
「今日も姫ちゃんはかわいいなあ。」
ホクホクした笑顔で写真を見ている純さん。
それこそ昨日、声をかけて来た女友達がイケメンならまだマシとか言ってたけど。
イケメンなのに変質者とか、なんかもっと無理なんですけど?
あたしの中のイケメンの概念崩れ落ちた音しかしないよ?
「そんなにモテるのに、ほんと無駄…。」
「それよく言われる。」
「大人の女の人に興味とかないんですか?大人の。」
「ねえ?なんで二回言ったの?」
そりゃ言いますとも。
あたしは高校生なのに見た目はまるっきり中学生ですよ?
12歳も歳の離れた子を可愛がるより自分の恋愛してこようぜって思うじゃん?
でも、
「成熟してますって人見ると気持ち悪くなる。」
「……………………。」
あたしの浅はかな希望は砕け落ちました。
近所の子供を可愛がる程度のもんだと思いたかったけど、やっぱりこの人ロリコンでした。
大人の女に気持ち悪くなるとか、ヤバイだろ。
そしてあたしも、そんな人と歩くのヤバくないか?
手出しされたことはないけども、可能性はあるってことじゃないのか??
そんなことを考えていれば、
「姫ちゃん、手繋いでもいい?」
純さんが恐る恐るといった面持ちで聞いてきた。
前までなら絶対嫌だったけど、あたしと歩くためだけにこうして嫌々ながらに変わってくれた人だ。
それを考慮すると、手を繋ぐくらいいいかなって思って。
はい、とチビのあたしは背の高い純さんにピンと腕を伸ばして差し出してたんだけど。
「〜〜〜っ!!!!」
何故か純さんは口元を覆い、その場にしゃがみ込んで悶えてました。
ポタポタと後から地面にシミをつくる血が、鼻血だと認識するのも早く。
やっぱりこの人やべえと思ったのです。
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