もしも黒猫様が悪女に転生したら19

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「アーティス様!アーティス様あぁぁあ!!!」
「ジーナ、お前はいつもいつも何度言わせたら気が済むんだ?叫ばないと入ってこれないのか。」
「お、皇子殿下がこちらに向かわれているそうなんですよおぉぉぉ!!!」

びっくりしすぎて大パニックのジーナからの報告に、皇子殿下?と僕は小首を傾げていた。

「なんでまた?」
「陛下からの話しによれば、賭博の報告書から明らかになにか隠していることを推察されたようで。隠しても仕方ないしどうせ知られることになるならと案内したとのことです。」
「つまり、息子の判断に任せる時がついにやってきてガクブルしてたってことか。」
「言い方がひどいですアーティス様!」

ジーナは僕に早く正装しないと!なんて言ってくるがそんなことする気はないと蹴っ飛ばして追い出したのである。

「アーティス様。流石に普段着で会われるのはいかがなものかと。」
「黙れユラン。皇帝にもこれで会ってるだろ。なんで皇子の時だけ例外が生まれるんだよ。」
「ですが…、」

ユランはいつも通り僕の身だしなみに不満を言うが突っ返しながらソファに寝転がっていた。

「皇子が来るのに俺らいていいの?」
「構わん。どうせ陛下との取引内容を聞きに来るだけだろうしな。あ、でもゼンは姿を消しておくように。」
「はい、先生。」

呼ばれて嬉しかったのかニコニコしながら素直なゼン。

アレンも数日姿を眩ましていたが普通に帰ってきて、やっぱりアーティが一番いいなんて飛びかかってきたところである。

それに対して、

「俺も呼べ!アーティ!」

リリーの変な嫉妬を見てから、

「そうだった。リリー、お前は一旦魔塔に帰れ。」
「何故だ?!」
「皇子はまだリリーが外に出たことを知らない!お前がいたら進む話も進まないだろ!そうでなくても首脳会議まであと一ヶ月だ!」
「むうっ。」
「ゼン、リリーを早急に送ってこい。」
「了解、先生っ!」

転移魔法を繰り出したゼンにより、何か叫んでいたリリーは消えた。

これで一安心だなとだらけていたらユランが気の毒そうに遠くを見つめていた。

程なくしてノック音が聞こえ、外からジーナの声がしたのだ。

「皇子殿下がお出でになりました。」

声が緊張しているものの、はっきりと言い切ったジーナに「入れ。」といえば扉が開かれたのである。

小説通りの紅い髪にエメラルドのような宝石眼。

従者はいつも一人。
リニアと言ったっけ?

元暗殺者というプロの者を側に置き、ヒロインに害なすことを絶対に許さないキャラだ。

そんな奴が報告書を見てここへ訪問するなど考えられない。

だってヒロインには関係のないことだからだ。

これも僕が物語を変えているから変わったのだろうか?

まあそこら辺は話をしてみればわかるだろう。

ソファに寝そべった状態でどこへなりとも座ればいいと施してやれば、皇帝陛下と違って驚くこともなくすとんと僕の目の前にあるソファに座ったのだ。

従者のリニアも特別表情に動きはない。

ふむ。皇帝陛下とはやはり違う。
メインヒーローなだけあると見るか、それとも…。

「なんの用だ。」
「陛下に聞いていないのか?」
「言伝は受けた。…が、本当にそれだけが知りたいのか?」

静かに見つめてやれば皇子殿下はどことなく懐かしそうな眼差しを僕に向けてくる。

うん?おかしいな。
なんでアーティスにそんな目を?

ヒロインにしか見せない柔らかい表情だ。

これは少し警戒したほうがいいなと思って起き上がると、

「報告書から陛下の裏で権力を使える人物がいそうな推察が当たったのでこの目で確かめにきたというのは本当だ。」
「じゃあそれ以外の目的は?」
「……好奇心、だな。」
「は?」
「陛下にはできない方法で問題解決をしたという人物だ。しかも裏から秘密裏に。どんな人物なのか、国の転覆も考えられるがそれ以上に、会ってみたかった。」

これが本音だ、と言い切る皇子殿下を前に誠実さしか感じない姿がある。

これにはジーナもユランもさすが陛下の息子だと言わんばかりに感心していたが、従者のリニアの反応は小さくため息をつくものだった。

つまり言っていることは本当なのだろうが、誠実さで言っているわけじゃない。

「好奇心、か。また便利な言葉で理由をつけてきたもんだな。」
「別にそんな気は…。」
「まあいい。訪ねてきた理由に対しての回答はしよう。」
「それより自己紹介からじゃないのか?俺はまだお前の名前も聞かされていない。」

静かに見つめられることにそうなのか?と目をパチクリとしてしまう。

そんな僕の仕草に皇子殿下が眉間の皺を寄せたので、そうなのかと信じたのだ。

まさか実は、

(なんでこんなに環にそっくりなんだ…っっっ!!!!)

皇子殿下が内心めちゃくちゃ悶えていたなんてことは知る由もなかった。

顔がにやけそうになるのを必死に堪えたために眉間の皺が刻まれたということを知っているのは本人のみである。

「アーティス・べレロフォンだ。」

僕はサラリと自分の名を告げていたが、けれどその名はやっぱり悪女としての噂が広まっているために皇子殿下の側近、リニアの目が軽く開かれるほどには驚かれていた。

皇子殿下は噂の?と言いたげにキョトンとする程度だったがな。

だから僕はことの経緯を簡単に説明してやったのだ。

継承権も返上してるし、本来ならば皇子殿下が皇帝陛下になるまで軟禁状態になったこと。

ただジーナのせいで賭博場で荒稼ぎする犯人に勝って捕まえることになったところまで。

リリーのことや首脳会議、あと王立学園や古代兵器のことは絶対に言えないけどな。

そこまでを聞かせるとリニアが信じられないものでも見るような目で僕を見つめており、

皇子殿下は見直したと言わんばかりの顔で「へえ。」と呟いていた。

「なるほど。でも何故皇帝があんなに不安そうな顔を?」
「あいつは僕の好きにさせてくれるが、時期皇帝は違うかもしれないだろう?単純に、僕と馬が合わないならこちらも出ていくつもりだし、もしも敵意を向けてくるようなら容赦しないと言っただけだ。」
「ああ…、つまり俺の器によって国が転覆するぞと脅してくれたわけか。なるほど。だからあんなに顔を青ざめさせてたわけね。」

クスクスと笑う皇子殿下。
僕が小説を読んでいたキャラとは印象がだいぶ違う。

ヒロインのことでしか動かないキャラだったはずなのに…。

確かに僕の行動で話の大筋はだいぶ変わっているが、だからってユランやアレン、リリーすらも小説で描かれている性格までは変わっていなかった。

ならばどうして皇子であるロードだけが僕の知っているキャラではないのか。

いや、もしかしたらそう見せているだけなのかもしれないが…。

「殿下、そんな笑い話しで済ませていいんですか?」
「なんで?笑えることじゃねえか。ていうか父上殿は肝が小さすぎやしないか?」
「いえ、肝がどんなに大きくてもこんな馬鹿げた話しはないかと。」
「なんだよリニア。お前、今日は随分と饒舌じゃん。」
「………」

目の前では皇子と側近による会話が広がっていたが、すぐさま口を閉じたリニアが今でも信じられないとばかりに僕を見る。

それはもう睨みつけるように。

「なんだそんなことだったのか。それなら父上殿に代わって今日からでも俺がお前のわがままや報告を受ける側に回りたいくらいなんだけど?」

どう?と問われるこの笑い方。

なんだろう?すごく嫌な感覚だ。
ていうか既視感がひどい。

そもそもロードはこんな風に笑うキャラではなかったはずだ。

仏頂面が柔らかくなるのはヒロインの前でだけとしか書かれていなかったし。

けれど実際のロードは胡散臭い笑みを浮かべて僕の返事を待っている。

「自分が何を言ってるのかわかってるのか?」
「わかってるさ。裏で問題の処理及び、色々やらかしてくれることに対して表向きの処理をしておけばいいんだろう?父上殿より、俺は多分楽しく聞いてられるタイプだけど?」
「…………めちゃくちゃ胡散臭い笑顔で言われてもな。」

信じられるか、と思って警戒している僕にロードは目をパチクリとして、

次の瞬間には自分の口元を覆い、目を逸らしていた。

まるで何か知られたくないこと、あるいは見られたくないことがあるかのようにどこかソワソワしているのだ。

「なんだ。言いたいことがあるなら言え。」
「いや…、そうじゃなくて。」
「なんだよ。」

ハッキリしない奴だなと思って睨みつけると、ロードはチラと僕を見てから、

「いやね、前にも似たようなこと言われたことがあってさ。」
「はあ?」
「つまり、お前って俺のモロタイプなんだわ。」

にこやかな笑顔は相変わらず。
そしてサラッと告げられたことに固まっていたのは僕だけではない。

従者であるリニアなんてギョッとしていたし、部屋にいるアレンとユランなんて不愉快そうな顔で睨んでいる。

そして僕はというと…、

「想い人の元に幼い頃から通い続けているのは周知の事実だというのに、よくもまあそんな見えすいた嘘が言えるな。」

驚くというか警戒が強まった。

なんなんだこいつ?
小説とはキャラが違うばかりか、何を考えているのか読めない。

おそらくユランとアレンも同じ気持ちでいてくれるのだろう。

警戒心からか、僕の側に近寄ってきて待機してくれたのだ。

そんな僕らにロードは「あ、そうか。それがあった。」なんてぶつぶつ言っていた。

「嘘じゃない、本心だ。マリアにはなんの関心もない。証人もいる。リニア、お前からもなんとか言ってくれ。なんでこんなに警戒されるんだ?」
「殿下の長い片想いを知っていて、急に別の人がタイプだと言われても…。正直俺も信じられません。」
「お前も疑うのかよ…。」

頭を抱えるロードを見つめていたリニアは、新緑の髪の合間から僕を静かに見つめてきて、

「ですが、田舎娘に懸想していた殿下の目が覚められたのは事実です。俺がマリア嬢をクソボロに貶しても怒るどころか共感されておりました。」

そこは証言いたします、とリニアが静かに言うのである。

あまりにも淡々とした報告に、ロードはうんうんと頷いて僕の反応を待っていたのだが、

「いや、クソほどどうでもいいんだが?そもそも僕はお前の恋愛事情なんて興味もないし、心変わりしたと言われたところで取り合う気もない。」

ズバッと言い切るとリニアは納得したように頷いていたが、ロードはクスクスと笑っていたのだ。

その様子に、ついに壊れましたか?なんてリニアが真顔で問いかけていたが、

「いや、本当にマジでクソ可愛くないこいつ?!」

ロードが顔を上げて嬉しそうにリニアへと振り返るのだ。

全くもって意味がわからん!!!!

ここまでハッキリ振られて、しかもかなり屈辱的な言葉を浴びせたはずなのになんでそうなるんだ!?

思わず飛びのきながらアレンに抱きつくと、ユランが僕の前に立ってくれていた。

「すみませんが、そろそろお帰り願います。アーティス様は他人を好みません。自分の気に入った者しか側に置かない人です。ゆえに、今日初めて会った殿下に好意的な態度を取られても受け止めるより先に怖がられております。帰ってください。すぐに。」

ユランが静かに代弁してくれることを聞きながら、アレンの腕の中で顔を埋めていた僕である。

なんだっけ?
なんだったっけ??

こんな感覚前にも味わった気がする。

よくわからないが、絶対関わらない方がいいと頭の中で警告音が鳴る!

どんなに皇帝陛下より肝が据わっていて好きにさせてくれるとしても、こいつが皇帝になるなら僕はとっとと別の国に行く!

そう決意していたのだが、

「ふうん?」

不意に聞こえたロードの声と、静かに立ち上がる音を聞いてチラと視線だけ向けると、

「わかったよ。今日は一旦帰ろう。別に怖がらせたいわけじゃないしな。」

そう言いながらも僕の視線ににっこりと笑いかけてきて、思わずファーーーーッッッと毛を逆立てる猫のように警戒心と敵意が募ったのだ。

けれどロードはそんな僕の姿すらも目を細めて見つめてきて、

「また来る。」
「二度と来るな!!!」

そんな言葉で去ろうとした背中に即答して拒絶を示したのだが、

ロードは振り返ってきながらフッと笑っており、

「悪いけど、拒絶されようが嫌われようがどうでもいいんだ俺。」
「なん…!」
「逃げられると追いかけたくなる性分なんでね。」

ひらひらと手を振って、またなと言うなり去っていった背中。

どこかで聞いたことがあるようなセリフにゾッとしながら僕はしばらくアレンの腕の中にしがみついて離れなかったのだ。

リリーとゼンはそんな僕の姿にいつもの幼稚な言い合いはなく、

寧ろ僕の頭を撫でてくれたり、背中から抱きついてくれたりしながら宥めてくれた。

まあ、

「アーティをこんなに怖がらせでくれる相手なんて早々居ないよね?可愛いからもっと殿下と会う機会増やさない?」

アレンはにこやかにそう言って、後からうんと甘やかすんだと目をキラキラさせるのだ。

クソ野郎代表かお前は?!と叫んで押しのけると、

「あの男、殺してもいい?いいよね先生?だってあんなにうざくて馴れ馴れしくて先生をこんなに震えさせてるんだ。拷問して殺してって頼んでくるまで痛めつけて殺そう?」

逆にゼンはにこやかに殺意剥き出しだった。

相手は皇子殿下であり次期皇帝の継承権を持つ男だ。

どんなにイケすかない奴でも、気に入らないから殺すなんて理由は罷り通らない。

落ち着けと僕がゼンを抱きこんでやると、甘えるように擦り寄ってきたからホッとしていた。

するとリリーがゼンをベリッと引き剥がして僕を抱き上げながら見つめ射抜いてきた。

「アーティ。何が怖かったのだ?いつもなら毅然と相手を言い負かすお前が、なぜ皇子相手にそこまで怯えている?」

いつも辺な独占欲とわがままのオンパレードのくせに、こういう時だけ年長者らしく静かに問われると言葉に詰まる。

それでも返答を待ってくれているリリーの胸元に僕は顔を埋めながら…、

「……初めから好意を持って接してくる奴なんていなかった。僕は嫌われて当然で、好かれるなんてもってのほか。お前たちだって最初は僕を偏見の目で見て話しただろう?」

静かに問いかけるとみんな黙って頷いていた。

出会い方に違いはあれど、アーティスの悪女という噂も相まってこいつらすらも僕を警戒していたのだ。

けれどロードにはそれが全くなかった。

寧ろ目に見えて好意的すぎる態度が逆に怖く思うほどに。

「嫌悪感に対して僕は好いてくれとは言わない。信じてない奴に信じてくれと頼んで信じられるわけがない。それと同じだ。お前らに信用してほしくて話しをしたわけじゃない。結果的に、お前らが僕を慕ってくれた。それだけだ。」

そして僕も、それを受け入れた。

そりゃあ面倒だと思うこともあるし、リリーやゼンに至っては問題が山積みだ。

一緒にいるってだけで国を脅かしてしまうような連中とわざわざ関わりたいとは思ってなかったけど、

結果的にリリーもゼンも、僕がいいと言ってくれる純真な感情を理解できたから側においたのだ。

アレンなんて義務的なこともあるが隷属の関係になることを受け入れてまで、男のロマンってやつを満たしたかったなんて子供のような笑顔で言うし、

ユランは最初こそ監視役で、いちいち小言がうるさい奴ではあったが僕の嫌いな大人とは違うとわかったからうるさい小言も聞き流せる。

でも、

「僕はお前たちと出会った時のように、ロードに対して欲しいものとか必要なものなんてない。確認のために訪問してきた奴に対してそんなものあるわけがない。でもあいつは…っ、」

確認する内容よりも僕に興味を示し、なんならあまりにもオープンに好意を示してきた。

ヒロインであるマリアに向けるべき笑顔を僕に向けて、従者すら困惑させるほどあっけらかんとな。

「何が怖いって、あいつの存在そのものだ!何もかもが嫌だ!理解できないし理屈がまるでない!!!」

それが何よりも怖い!

僕がリリーの腕の中で縮こまりながら叫ぶと、リリーはそっと僕を抱きしめてくれていた。

「理屈が伴わない行動が、怖いのか?」
「そうだ!好みだから、なんて理由がまかり通るとでも?お前たちにそれを言われることに対しては僕だって好感は持てるし安心もしている。」

寧ろそういう奴らだと知っているからこそ、なんだかんだ甘やかして甘やかされてきたのだ。

でもロードは今日初めてあったのに、こいつらと同じことをした。

あまりにも不愉快で、あまりにも理解不能で、あまりにも……こわい!

「疑心や警戒すらすっ飛ばしてそんなことするやつを信じられるか?!僕の評判は最悪なのにそんな人間がいると思うが?!皇帝陛下ですら僕を軟禁することで一時的に僕を信用すると決めたに過ぎないのに!」

ふーっ!ふーっ!と肩で息をしながら言葉にしていた僕に、リリーは落ち着けと言わんばかりに背中を撫でてくれていた。

その温もりに息を整えていれば、

「確かに、アーティス様の仰ることも一理ありますね。私たちは噂に過ぎなかった悪女だと知れたからこそ信頼関係を得られたというのに。皇子殿下はそんなものまるで最初から興味がない様子でした。」
「確かにね〜。そういうこと全く気にしない奴はいるかもしれないけど、だからって今更なんで皇子殿下が?とは思うね。」
「これまで田舎娘にしか興味がなかった奴の手のひら返しだからな。先生に危害を加えるつもりかもしれない。調べる必要がある。」

みんなが僕の言葉に共感しつつ、疑わしい皇子殿下への敵意と警戒がうかがえた。

僕もそうだろう、そうだろうと頷いてはいたが、

「ロードを調べるのはゼンとアレン、お前ら二人に任せる。…が、あまり深入りはするなよ?あっちも暗殺者を従者にしている奴だ。命あってこその諜報活動だということは肝に銘じろ。」

僕が命令すればアレンもゼンも静かに頷いて、サッと部屋から消えていた。

こういう時、本当に頼もしい二人がいていくれて良かったと思う。

「俺たちはどうすればいい?」
「ご命令を。」

そしてリリーとユランが僕を見つめてくることに、僕はリリーの腕の中でもたれこみながら…

「ロードはおそらく明日も来るだろう。門前払いしたいところだが、アレンとゼンでは調べきれないことを本人が話してくれる可能性もある。だからそばにいてくれ。」

僕がもう無理だと判断したらユランは今日のように追い返して欲しいし、リリーにはこうして抱きしめてもらいたい。

おそらく僕が一番苦手とする人間だ。

精神的な疲労を覚悟して離さなければならない。

しゅんとしながら疲れて縮こまる僕に、リリーとユランは優しい声音で宥めてくれた。

「かしこまりました。そばにおります。ご安心ください。」
「うむ。頑張りすぎるなよ。」

そんな二人の存在に安堵して、僕は疲労回復を本能的にするかのように寝落ちしていたのだった。


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