迷える子羊❻

006.迷える子羊

初めて男性を招いたわたしは、空さんが自分の部屋にいる光景に少し違和感を覚えてしまう。

まあ同性の人すら呼んだことがないので。

だって友達いませんので…。

そこら辺を考えると最初に招いた人が男性っていうのもどうなんだろうかと思いましたが、

「ヒツジ、なんか手伝おうか?」
「じゃあお野菜切ってくれますか?」
「わかった。」

わたしの嫌がることはしないって言った空さんは、ちゃんと約束を守ってくれているので安心して見ていられる。

それに楽しそうな横顔を見るとやっぱり出て行ってなんて言えませんしね。

二人でハンバーグを作って食べるまで、楽しく他愛のない話しをしていました。

食べ終わると空さんはコテンと寝てしまっていて、本当に子供のようです。

食べたら眠くなるのはみんな同じですが、欲求に素直な人だなあと見て楽しんでしまいました。

だって寝顔が無垢で可愛かったので。

起こさないようにそっと毛布をかけてあげつつ、わたしはお片付け再開です。

泊まらせる気はなかったのですが、当分起きなさそうな空さんを見ると起こすのも悪い気がして…。

音を立てないようにお風呂に入り、起きるかな?と観察していましたがやっぱり起きる気配がありません。

「まったく…。大きな子供ですね。」

寝る前に様子を見に行き、空さんの頭をそっと撫でてあげると気持ちよさそうに顔を綻ばせていた。

一人暮らしのリビングなんてそこまで広くもないので机を片付けてあげて、電気カーペットのスイッチを入れておきました。

まだまだ寒い日が続きますからね。

そんな寝顔をじっくり見ているとわたしも眠くなってきて…、

自分のベットへと戻りながら電気を消したのです。

思わぬお泊まりになりましたが、まあ大目に見ましょう。

明日の朝、朝食はなににしようかなと。
そんな平和なことを考えながらもわたしは眠りについたのでした。


翌日、わたしはいつも通りに目覚めてリビングへ。

空さんはぬくぬくとくるまってまだ寝ていたので、朝食を作り始めたのです。

味噌汁を出汁から取り、魚を焼いて、卵焼きとウィンナーも簡単に作りました。

タイマーをかけていたご飯は炊き立てです。

それらを準備していると、

「ふあぁ〜っ!」

空さんがやっと起きました。

「おはようございます。もう朝食出来ますので、机出してもらってもいいですか?」

キッチンから振り返って言えば、空さんは寝ぼけ眼で何度も目を瞬くのです。

それから周りを見渡し、もう一度わたしを見てから、

「え、俺…。」
「昨日、夕飯食べてすぐ眠っちゃったので。起こすのも悪いしそのまま寝かせたんです。」

状況把握に困惑している様子だったので説明すると、空さんは目を大きくして驚いていました。

「待って。じゃあ俺、一度も起きなかったの?!」
「?…はい。よく眠られてましたよ?」

何かおかしいことだったのでしょうか?

エプロンを付けたまま、動きそうにない空さんの代わりに机を出そうとすると慌てて手伝ってくれました。

その上に出来立ての朝食を置いていく過程に、空さんはポカンとしているのです。

「8時間以上ずっと寝てたのでお腹すいてるでしょう?課題でもして寝不足だったんですか?」

たくさん食べてくださいね、と箸を渡すと空さんはあんぐりした状態でふるふると首を左右に振るのです。

「俺は…、あんま眠れないほうで…。」
「へ?」
「こんなにぐっすり眠ったの初めて。」

呆然としている空さんは頭がスッキリしてることすら驚いていました。

「普段から眠れないんですか?」
「うーん…、暗いのが昔からダメで。眠れないから夜が嫌いなんだよね。」

やる事もないから勉強するようにして、それもやり終えてしまうと本を読んだりしながら時間を潰すのだと言う。

「朝が来たら逆に眠くなって、しょっちゅう遅刻してた。」

めっちゃ怒られた、と空さんは言いながらお味噌汁の香りに引き寄せられるように口に運んでいました。

美味しい、と笑顔になってくれることにわたしも食べながらよかったですと返していました。

「起きたら朝ごはんあるのっていいね。すごくあったかい。」

しかもこの程度のことで感動してくれているのです。

本来なら当たり前のことなのに、そうじゃなかったんだと空さんは自分で言ってることに気づいているんでしょうか?

「あーあ、ヒツジ持って帰りたいなあ〜。持って帰れば安眠できるのに〜。」

そしてそういう子供みたいな発想をしてしまうのも最近慣れてきた所です。

空さんのこと知らない時は怖すぎて逃げていましたが、彼にとってこういう発言は純粋に眠りたいからのこと。

持って帰られるのはちょっとアレですが…、

「眠りたい時に来ればいいじゃないですか。狭くてよければですが。」

わたしもこうして誰かとご飯を食べるのは楽しいし、空さんがただ眠りたいだけなら、

わたしができることはしてあげたいと思ったのです。

「ほんと?!また来ていいの?!」
「はい。変なことしないなら。」
「変なことって?」

キョトンとされると言葉に詰まってしまいました。

なんだかわたしが変態さんになった気分です。

空さんはそういうこと考えて言ってるわけじゃないとわかってはいるんですが、念のためと思うと…。

「いえ、なんでもありません。」
「俺に襲われると思ったんだ〜?」

にっこーとしたスマイルを見せられるとムッとしてしまいます。

「前科がありますからね。」
「なんにもしてないし。てかなんにも出来なかったし…。」

空さんはむうっとしながら、

「目の前でくーすか寝こけたヒツジに絆されるなんて思ってもなかったし。」
「絆されてくれてありがとうございます。」

よくやりましたわたし!と自分を褒めながらもにこやかに礼を言えば、空さんはむっすうっとしていらっしゃいました。

「付き合ってるならさ、キスのひとつでもしようと思わない?触りたくならない???俺ってそんなに魅力ない?!」

わたしが全く興味を示さないからなのか、空さんが変な拗ねかたをしてしまわれました。

なんなんでしょうねこの子。
そういうことはした事あっても、感性がまるで子供なのです。

大人の遊びを知った子供はこんな感じなのでしょうか?

まあ、もう慣れてきているのでいちいち泣く事もありませんけどね。

この慣れっていいんでしょうか?と最近思うものの、

「そうですねえ。いい子にはキスしたくなるかもしれませんねえ〜。」

空さんの扱い方がわかってきたので、にっこりと言ってあげると、

「いい子って具体的に何すればいい子になるの?!」

どうしたらいい?!と前のめりになって聞いてくる空さん。

食いつきましたね。
がっつり食いついてきましたね、はい。

「そうですねえ。食事は残さず食べること、からはじめてみますか?」

なんて言ってみるともくもくと食べて綺麗に平らげる空さん。

キスしたくなった?!とすぐ聞いてくるので、

「次はお片づけですよ。手伝ってくれたら考えます。」

なんて言うと率先して洗い物までしてくれました。

なんだか素直な姿に小さく笑ってしまいます。

あんまりにも必死な背中だったので。
可愛いなって。

「終わったよ!次は?!」

なにすればいいの?!と寄ってきた空さん。

取り敢えず今のところ、空さんが全部やってくれましたので他に家事は…

「あ、空さん帰らなくていいんですか?お風呂も入ってないでしょう?!」

家事について考えていくと次は洗濯かな?と思ったのですがハッとして、そういえば!と問いかけていたのです。

けれど、

「そんなのどうでもいい!あとでいい!話し変えるなよ!」

キスは?!ってそこにしか興味ない空さんの怒り方よ。

おかしいですよ、絶対!

でも新しいおもちゃをねだる子供だと考えたらわからなくもなくて、

わたしは背伸びをして、空さんのほっぺにチューをしてあげたのです。

「ご褒美です。」

これでいいでしょう?と見上げると、空さんは少しの間呆然としつつ、

次の瞬間には顔が真っ赤。

でも、

「な、なんでほっぺなの?!唇じゃないの?!」
「うーん、今のところ唇にチューはしたいと思ってませんね。」

子供にもほっぺにチューはよくやるでしょう。

あんまりにも可愛かったら唇にもしちゃうかもしれませんが、

空さんは中身が子供でも見た目は大人ですからね。

そんなこと抜きにしても、わたしからチューしたくなるような気持ちは今のところほっぺまででした。

「どうしたら唇欲しくなるのヒツジは?!」
「言い方。空さん、言い方が卑猥です…!」

欲しくなるってあなた!
わたしが欲しいものに対してホイホイキスする女のように言わないでもらえます?!

いや、そんな感じで諭してしまったのはわたしですが…!

「言い方とか今どうでもいいじゃん!ヒツジはなにしたらキスしたくなんの?!」

教えて!と迫ってくる空さんの執着ったらしつこい!

わかってたけれど、どんだけキスして欲しいんでしょうか?!

わたしたちまだ付き合ってることになってるんでしょうか?!

「気分じゃないんですよー!気が乗ったらわたしもすると思います!」
「どうしたら乗ってくれんの?!」
「そんなのわかりませんよ!そもそもキスしたことなんてないですし!」

迫る空さんの胸板を押し返しながら言えば、空さんは「え…」と固まっていた。

「したことないって…?え、じゃあファーストキス…」
「ほっぺにチューだって異性にしたことなかったんですから…!それで満足してください!」

まったく!と言いながら見上げれば、空さんは口元を手で覆ってわたしを見下ろすのです。

ほんのりと紅潮している顔で、わたしがさっきキスしたほっぺへと手を移動させ、

「ヒツジの初めて、俺がもらったってことだよね?」
「い、言い方!またそんなふうに…!空さんが可愛かったしいい子だったのでご褒美ですよ!」

変な意味はありませんからね!と付け足して念押しするものの、

「ヒツジの初めて全部俺に使うんだよ!わかった?!ヒツジの気分が乗るように俺がんばるから!」
「どんなことに努力を使おうとしてるんですか!そんなこと別に頑張らなくていいですよー!」
「だって俺が頑張らないと、他の誰かがヒツジの初めて貰うことになるじゃん!そんなの絶対嫌だ!」
「話しが飛躍しすぎててついていけません!」

なんでそういうことになるんでしょうか?!

ただのご褒美だったはずなのに!

わたしだって初めては好きな人とって思ってる程度で、相手なんていませんからね?!

そもそも空さんみたいにモテたことないので!

「飛躍なんてしてない!俺の嫌なこと話してるだけで!」
「わたしに結婚させないつもりですか?!」
「俺とすればいいじゃん!」
「待ってください。そんな約束、簡単にしていいものじゃないでしょう?空さんが他の人を好きになる可能性も…」
「それは絶対あり得ないから安心して!」

なんの根拠があってそんなこと言えるんでしょうかね!

もう、話になりません。

お互いにまだ学生で、社会人にもなってないのに。

一時の感情で話していい内容ではないと思います。

「落ち着いてください空さん。別に今すぐわたしが誰かにどうにかされるようなことでもないですし。そもそもわたしは付き合った事もないんですよ?」
「俺と付き合ってるじゃん!なに?!まだ付き合ってないと思ってたの?!」
「あ…、」

やばいです、地雷踏んでしまいました!

この件については散々空さんに言いくるめられてきて、結局なあなあで終わってたので…。

ゴゴゴゴゴ…と音すら聞こえてきそうな空さんの迫力にわたしは言葉を探すのに必死。

さっきまであんなに素直で可愛かったのに…!

「そ、そ、そうでしたね!付き合ってました!すみません!言葉の綾というか…、忘れてたっていうか…。」
「どっちにしろ悪い!」
「だって強引に進めた話しじゃないですかあっ!前ほど空さんのこと苦手ではないですが、好きとかもよくわからなくて…!」
「じゃあ早く好きになって!」
「そんな無茶な…っ。こういうのは時間をかけるもので…!」
「じゃあ俺がしょっちゅう泊まりに来るようにすればいいってこと?」
「いや、それはその…」

一概に否定もできないです。
だって眠れないなら来たらいいですよって言っちゃったあとなので。

それに時間をかけて空さんと共に過ごすというのもあながち、わたしの言ったことに矛盾はしてないのです。

単純にわたしたちはお互いのことをなにも知らない状態で、

好きとか嫌いとか以前のことだから。

知っていく時間というものは必要だから。

そこまで考えると、

「泊まらなくてもいいので、ゆっくりお互いのことを知っていけたらなということです。」
「つまり、一緒に過ごしていく時間が必要ってことだよね?泊まった方が効率的じゃん!なんなら一緒に住むとか…!」
「きょ、距離感は大事です!そんないきなり一緒に住むとか泊まりとかはちょっと…。」
「でも眠りにくるのはいいの?よくわかんなくなってきたんだけど…?」
「と、取り敢えず!お互いを知るのに効率なんてないんです!ゆっくりでいいじゃないですか!」

むしろ焦ったってなにも実りません!とわたしが言い切ると、空さんは少しシュンとして見えた。

「空さん…?」
「わかった。言う通りにする。」

ぷいと背中を向けてしまった空さんはいったいなにを考えていたんでしょう?

ただ、寂しそうに見えてしまった背中の引き止め方がわからなくて、

「じゃあ今日は帰る。泊めてくれて、ありがとう。ご飯も、美味しかった。」
「………はい。」

間違ったことは言ってないはず。
だけど空さんを悲しませたかったわけじゃない。

彼は彼なりに必死だったってこともわかるから、罪悪感が込み上げてきたのです。

嫌いなわけじゃないけれど、空さんの求める好きをわたしはわかってなくて…。

時間が欲しいと言っただけですが、空さんにとってはもどかしいのかもしれない。

こればっかりはわたしにもどうにもできなくて、だけど空さんはずっと純粋に好きって言ってくれる。

彼のあまりにも純粋な好きを無碍にしてしまっただろうかと、

そう思うとわたしは空さんの服を摘んで引き止めていたのです。

振り返ってきた空さんはまだ何かあるのかと目で訴えてきて、

嫌がることはしないよって距離感を保とうとしている様子だった。

そうさせたのはわたしだってわかってるものの、

「あの、もう少し一緒にいてくれませんか?」
「………なんで?俺、お風呂入ってないしヒツジに迷惑かけてるんじゃないの?距離感ってやつ、俺はまだよくわかんないし…。」

このまま一緒にいても責めちゃいそうだし、と空さんが言うことにわたしは反省した。

空さんはただ、わたしと一緒にいたいだけで、わたしにもそう思って欲しいと思ってるのだ。

勿論それは簡単なことじゃない。

わたしは間違ったことは言ってないけれど、だからって空さんにしなくていい我慢まで強要したくはない。

口にすることも躊躇ってわたしの顔色を伺う空さんはただ…、

「寂しいって言うことは、迷惑じゃないですよ?」
「…!」
「わたしも空さんが居ないと寂しいです。好きとかそういうのはよくわかりませんし、将来のこともわかりません。でも、」

わたしに嫌われたくないと、それだけでありふれたわがままを言えなくする気はないのです。

「時間が許す限りは一緒に居ましょう?わたしに空さんのことたくさん教えてください。わたしのことも知ってください。」

恋愛に繋がるかどうかは誰にもわかりません。

だけど、

「ひとりは寂しいし、寂しいことは痛いんです。それだけはわかりますから。」

一緒にいる形は恋愛じゃなくてもいいはず。

「まずは、友達から始めてみませんか?お泊まりも、空さんがしたい時に来てくれて構いません。」

だから…、

「わたしのために自分を殺してほしいわけじゃないんです。寂しいのに寂しいって言えないような関係なんて恋人以前のことですし。」

最初は間違ったかもしれませんが、間違いから学ぶことはできるのです。

わたしは空さんに笑いかけながら、

「なんでも言い合えるような関係になれたら素敵だと思うんです!」

焦りは禁物ですし、分かり合えない人はいるので空さんとどうなるのかなんてわたしにもわかりませんが、

「遠慮してたらなにもできませんので、空さんがわからないことはわたしが教えます。わたしがわからなくて空さんの嫌なのことをしてしまったら教えてください。」

直すようにします、と言って伝わってるだろうかと見上げると空さんは、

「わ…!」

無言で抱きついてきたのです。

そのしがみつくような強さにわたしはぽんぽんと空さんの背中を撫でてあげていました。

突き放したわけじゃない。
それは伝わってくれているようです。

「ヒツジはあったかい。」

ポツリと呟かれる言葉に、わたしはそうですか?と言いながら撫で撫でしていました。

この大きな子供はまるで無欲なようで、ありふれたものを欲しているだけ。

空さんがわたしにそれを求めるのなら、出来る限りのことはしてあげたいなと思ったのです。

「でも友達かあ…。なんか一気に降格した気がする。」
「なに言ってるんですか。格上げしたんです!」

今まで脅しに付き合ってただけですからね。

恋人の強要だった関係にちゃんと名前がついたんですから、絶対格上げの方だと思います!

普通なら友達にすらなりたくないと逃げられたって文句言えませんからね空さん?

「そう?ヒツジがそう言うなら…。」

まあいっか、と空さんが頷いたことにわたしもコクコクと頷いておりました。

「それで、もう少し一緒に居てって言ってたけどなにかすることあるの?」
「へ?」

そうして改めて引き止めたことに対する疑問を投げかけると考えてなかったー!と固まってしまいます。

えっと…、とあわあわしていると空さんはフッと笑っていて、

「することないけど、俺といたいってこと?」

なんだか嬉しそうに問いかけられたのでコクコクと頷いておりました。

だって何かしたいことがあって引き止めたわけではありませんし。

寂しそうな背中をなにも言わせず我慢させて帰すのは違うと思ったからなので。

「すみません。なにもなくて…。」
「ううん。なにかを期待されて呼び止められるより嬉しい。」
「…そう、ですか?えっと…、」

だからって抱きつかれたまま玄関にずっといるわけにもいきませんし…。

キョロキョロとあたりを見回しながらやることを探してしまうわたしに、空さんは少し離れながら、

「ヒツジは休みの日、なにしてんの?」

そんな問いかけにわたしは普段の休みの日を思い返していたのです。

「えーっと、映画を見たり撮り溜めしたドラマを見たり、ですかね?あとは食材を買い込んでおくとか。」

めちゃくちゃ普通でした。
面白みのない休日ですみません!

わたし、ぼっちなんで!
友達と遊ぶとかそんな予定入ったことないので!

改めて言うと空さんみたいに色んな人からお誘いがあるだろう人を呼び止めてしまったことに後悔してしまう。

あわあわするわたしに空さんは、

「じゃあ俺もヒツジの隣でのんびりする。」

居心地良さそうだし、と言ってリビングに向かう空さん。

その背中はさっきまでと違ってワクワクしているような、どことなく安堵しているように見えたのでした。

まあ、

「ヒツジ、ホラー好きなの?!」
「好きというか…、特にジャンルにこだわりがないというか…。このホラー映画は面白いってネットにあったので一度見てみたくて?」
「そんな平気な顔して見られる内容じゃなくない?!」

映画の効果音にびくついている空さんはどうやらホラーが苦手らしいです。

ホラーというか、大きな音?でしょうか?

見る人を驚かせる仕掛けがホラー映画の醍醐味ですが、空さんには効果的面のよう。

「ほか!他の見ようよ!」
「わ、わかりました。じゃあ…」
「なんでアクションものなのにゾンビが出るの?!」
「そういう映画なのでとしか…」
「うわあぁっ!」

バンッと画面が切り替わってゾンビが出てくる画面に驚く空さん。

びっくーっとしながらわたしにしがみついてくるのです。

平和な映画はたまたま借りてなかったのでなんだか悪いことをしてしまったような…?

「よくこんなの平気で見れるよね?!」
「これくらい普通に見ますが?」

アクションものにも色々あるので得て不得手は人それぞれでしょうが、ひとりで過ごすのはプロですし?

ジャンルも特に気にしないので慣れてしまったのもあるかもしれませんが…。

「それにですね。ゾンビなんて実際いませんし、あんな素早い動きできませんよ?筋肉が腐ってたら歩けませんから。」
「そんな現実的な話し聞いてないけど?!」

考え方そこ?!と空さんがギョッとしてしまわれていた。

安心させようと言ったことが空回りしました。

「じゃあグロい系なら見れます?」
「なんでそんなものばっかり借りてるの?!」
「たまたまです。」
「ほんとに?!!」

そういう趣味とかじゃなくて?!と空さんが終始、わたしの選んだ映画にガクブルしながら見ることになってしまった休日。

最後はもうわたしの趣味すら疑われてしまっていた。

今度はなにか、恋愛映画とかちょっと平和なものを借りておこうと思いました。

「つ、疲れた……っ。」

見るだけなのに、と空さんは最後わたしの膝に寝転がってぐったり。

思わぬ一面が見れたことにわたしは撫でてあげながら、

「じゃあ次ですね!コーラとポテチも買い込んでありますよ。」
「まだ見るの?!」

てかどんだけ借りてるの?!と言われるとたくさんとしか言いようがありません。

そもそも借りてるものもあれば、映画ばかり見れるチャンネルの契約もしてるので見放題なのです。

そんなこんなで平和?な休日はいつもと違って少々賑やかにお家で過ごしました。

「もう嫌だあぁぁぁぁぁっ!!!」

小噺

生明ゆめの気まぐれ短編集

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