迷える子羊❹

004.迷える子羊
空さんはあの日以降、

「構ってもらいに来たよ。」

こうして度々わたしの教室に現れるようになりました。

最初こそ本当にきた!と思ってびくつきましたが、何度も同じことを繰り返されると人間慣れてしまうもので…。

「空さん、休憩の度に来てませんか?授業の用意とか大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。全部ウサギに任せてるから。」

なんて哀れなウサギ先輩…。

にこやかな空さんはわたしの机の前でちょんと座り込み、

休憩時間に甘いものを食べる日課があるわたしはそのまま彼の口の中にお菓子を放り込む癖までついてしまったほど。

なんか餌付けしてる気がします。

まあそれも喜んで食べてくれるのでいいんですけどね。

なんなら早くくれと口をあけて待ってたりするのでこの人。

そしてこれがずっと続くとクラスメイトもみんな見慣れた光景になってしまったのが良かったのか悪かったのかわかりかねるところ。

目立たないわたしなんかに毎日会いにくる空さんのせいで一気に目立ってしまってるんですから。

まあ目をつけられていじめられないならいいんですけどね。

なんて思っていたのも束の間。

わたしは、

「顔貸してくれる?」

にこやかに美容学科の生徒が乗り込んできました、はい。

王道パターンですね。
いじめられること間違いなしですね。
フラグがっつり立てちゃいましたもんね。

そう思うとやっぱり空さんを甘やかすなんてしちゃダメだった、と後悔しましたが遅かったです。

彼女たちは空さんが来る前にと放課後になった瞬間乗り込んできたのですから。

きっとわたしのところに空さんが通い詰めていることもわかってての行動なのでしょう。

ビクビクしながらついて行くわたしの背を、クラスメイトたちも見ていたのに、

誰も止めてくれませんでした。当然ですよね。

誰だっていじめだとわかってて、関わりを持とうとはしませんよね。

ここはひたすら謝っておこうと決心しながら、

これまた王道パターンである屋上に繋がる階段広場で囲まれておりました。

暴力を受けるだろうか?
罵倒で済むならいいんですが…。

こちとらいじめられっ子歴=年齢というプロなので、相手を刺激しないように頑張ろうと覚悟を決めたのですが…。

「最近空に付き纏われてるみたいだけど大丈夫?」
「え…?」
「あいつ、女に執着なんてしたことないくせに珍しいことしてるからさ。気になるのもあったんだけど、見た目からして空のこと避けてそうなタイプで心配もしてたんだよね。」
「あの?」
「あいつ人の話し聞かないでしょ?困ったことあったら何でも言って!どうせ放課後もあいつ来るんでしょ?邪魔はいるとややこしいから、ちょっと話したくて場所移動したの。」
「えええっ。」

調子に乗んな!と言われるかと思ったのに、この人たちは空さんに付き纏われているわたしを心配して声をかけてくれたらしい。

空さん、普段からあんななんですね。
人気者だと思ってた手前、目の敵にされると思ったけど逆に心配されるとは!

でも、

「てかあんた地味に見えるけど顔立ち綺麗だよねえっ!化粧したら映えそう!」
「ほんと。爪も綺麗だし、今度の課題でモデルしてくれない?」
「も、もでる…?!」
「あたしら授業でお互いの爪とか顔とかいじるんだけどさ。系統的に限界が来るんだよね。」
「えええええっ!そんな恐れ多いです…っ。」

そっか。
この人たちは美容学科だから必然的にメイクやネイルの授業を受けてるんだ。

課題もそれに付随するからモデル探ししている人は確かによく見かけていたけど、

まさかわたしが声をかけられるとは思いも寄らないこと。

だって声かけられたことありませんので!

わたしは影の薄いモブなので!

「そんなことないって!あ!女子会とかする?あたしたちよく集まって課題やってるんだ。あんたも来てよ!」
「じょ、じょしかい…?!」

マジですか?!わたしが女子会とかいっていいんですか?!

同性からも嫌われることが多かったからそんなキラキラした集まりに縁がないもので…。

驚く反面なんだか嬉しくて、嫌われないだろうかと心配にもなってしまう。

「いいじゃん!それいい!」
「でしょ?空の話しも聞きたいし!あ、てか付き合ってんの?それっぽいこと聞いたんだけど?」
「えええっ?!付き合ってません!断じて!多分!」
「多分?なにそれ笑える!」
「なにあいつ?振られたの?」

きゃらきゃらと笑って気さくに話しかけてくれる彼女たち。

悪い人ではなさそうです。

きっちりばっちりメイクをして服装もおしゃれで、近寄りがたく思っていたけれど、

話してみると案外喋りやすいかも?

なんて思っていると、

「付き合ってるから!振られてないから俺!」

背後から聞き慣れた声がしたと思えば、彼女たちを割って空さんがわたしに迫ってきたのです。

「空さん、また来たんですね。」
「付き合ってるよね俺たち?」
「あの、それは空さんが強引に押し付けてきてるだけで…」
「録音拡散。」
「はい!付き合ってます!わたしたちラブラブカップルです!!!」

ボソッと落とされた脅しに半べそになって手のひらを返しましたわたし!

ひええっ!と肩をびくつかせて言ったわたしに、

「ちょっと女子の会話に割って入んなよ空!」
「てか脅して付き合い認めさせるってどんな関係だよ。男の風上にもおけねえクズじゃん!」
「ほんとほんと!こんな可愛らしい子いじめるとかあんたサイッテーよ?」

わたしを守るように彼女たちが反論してくれたことには感動して涙が出ました。

女友達ってこんな感じなのでしょうか?

いつも嫌われていたので嬉しすぎてヤバいです。

「うるさいビッチ三姉妹め!」
「誰がビッチだ!お前の股間使いもんにできなくすんぞ!」
「お前らまでなんでヒツジにちょっかいかけてんだよ!」
「あんたが四六時中付き纏ってんの見てりゃ同じ女として同情するだろ普通?!」
「なんで?」

キョトンとする空さん。
ええ、もう空さんは空さんなんだなと思うしかないほど空さんでした。

これには彼女たちがにこやかにゴゴゴゴゴ…と地響きのような音すら聞こえてきそうな迫力で…、

「なんで?何でってきいた?あんたが非常識で人の話聞かないクソで女心もわかんねえ空気読めない奴だからに決まってんでしょ?」
「デリカシーがまったくないあんたの言葉で何人の女が泣いてきたと思ってんの?それすら自覚してないんでしょ?あんたはね、限りなく女の敵なの!」
「挙げ句の果てにこんな可愛らしくて自己主張が苦手そうな子に何する気?脅して付き合ってること、詳しく聞かせてもらおうか?」

ニコニコしてるはずなのにとっても迫力のある彼女たちに囲まれた空さんも流石に焦っていた。

なんでそこまで怒ってんの?!と言いたげな顔で、けれど反論もできない内容だったのかわったわたしてるんです。

おかしいと思っちゃ悪いんでしょうが、おかしい光景です。

いじめられると思ってた分、彼女たちが空さんからわたしを守るために訪ねてくれたんですから。

そんな彼女たちにも空さんはしゅーんとしながらお説教をくらってるんです。

ここまでを見てしまうとさすがに、

「ふ…っ、ふふふっ。」

笑っちゃダメだと思うと、余計に込み上げてきて笑ってしまってました。

そんなわたしの声に彼女たちも含めて振り返ってきて、空さんは目をパチクリとしながら「ヒツジが笑った!」と言っていた。

そのまま駆け寄ろうとしてきた空さんでしたが、それより早く…

「か、可愛い〜っ!なにこの子!めっちゃ可愛いっ!!!」
「小動物みたい!もふもふしてるわ!肌もすべすべだし!」
「持って帰りたいっ!」

彼女たち3人にわたしが抱きつかれていたのです。

あわわわわっ!
こんなことされるのは初めてなのでどうしたらいいんでしょう?!

でもなんだか嫌な気はしなくって、すりすりされることにくすぐったくなって笑ってしまうんです。

さなか、

「どけよビッチ三姉妹!何で俺より先にヒツジに触るんだ!」
「うるさいゲボカス野郎。」
「空気読めねえガキはとっとと帰んな。」
「あたしらはこれから女子会だから。」

3人が中指を立ててベーッと空さんに喧嘩を売るのです。

すごいわこの人たち!
空さんにそんなこと言えるなんて!

おおっ!と小さく拍手をしていたわたしでしたが、

「ヒツジに構ってもらうの俺なんだよ!俺が先約なの!彼氏だからな!何が何でも譲らねえ!!!」
「はあ?何言ってんの?振られたんでしょ?付き合ってると思ってんのあんただけじゃん。」
「痛いってそうゆうの。」
「ほんとあんた昔から顔だけだよね。」

うんうんと3人が口を揃えて言い合うことに空さんは「振られてないし付き合ってる!」といまだに主張していた。

そのまま3人に連れられてわたしは荷物を持ち、校舎から出ていたのですが、

空さんもついてきて未だに3人と言い合いしているんですよね…。

「あのー…、皆さんは昔からのお付き合いなんですか?」

あんまりにも親しく見えたのでふとした疑問を口にしてみると、

「そうそう!小学校から専門学校までずーっと同じなんだよね。」
「こいつほんと見た目だけでよく告られてたんだけどさ、振り方が最悪なの!」
「あんた誰?とかならまだいい方だけど、呼び出されたのに何であんたに時間割かなきゃいけないの?とか、行きたくないから行かないとか普通に言うし。」
「えええええ…っ。」
「バレンタインとかチョコ渡すために持ってきた子の目の前でゴミ箱に捨てたりするしね。」
「しかもその理由がナッツ入りのチョコ嫌いだから、だよ?あり得なくない?捨てるにしたって目の前で速攻はないでしょ?!」

彼女たちがわたしにたくさん話してくれる内容には唖然としてしまう。

本当に空さんは、昔から空さんなんだなと衝撃を受けながらも納得している自分がいた。

「授業中だって面白くなかったら先生の頭に上靴投げたりするし、」
「うえええっ?!」
「早弁も堂々としてたよね?先生の方がもう唖然としちゃってたくらい。」
「そうそう。色々やらかすくせに、先生がこれやったの誰だ!って聞くと手あげて俺です!って真顔で言うんだよね。」
「ほええええっ?!」
「またお前か!ってやり取り見るのも日常になるくらい問題児オブ問題児だからこいつ。」
「正直者でも馬鹿がつく正直者なわけ。」
「女に限らず空は空なんだってこと知ってるからあたしらは付き合えてるだけ。」

こいつに本気になるとかありえないから、と彼女たちが教えてくれる内容はわたしの予想を遥かに超えていました!!!

まるで二次元です!
そんなこと実際にする人いるんですね!!!

あんまりの衝撃に驚くしかできないわたしでしたが、空さんは何食わぬ顔でひとこと。

「ヒツジ、おやつちょうだい。」

全く聞いていなかったのだとわかる顔で口を軽くあけておねだりしてくるのです。

いやまあ、それくらいはいいんですけどね。

カバンからお菓子を取り出しつつ、癖になった餌付けをしてあげると、満足そうにモグモグしながらまた背を向けてしまう空さん。

本当ににゃんこみたいです。

でもこんな気まぐれ屋で自分の好き嫌いがはっきりしてるからこそ、空さんなんだろうなって思うと今までの話しも納得してしまう。

空さんだから、って理由がまかり通る人なんですよねこの人。

「ほんと珍しいよね空。女の子に自分から付き纏うなんて。」
「しかも顔と名前ちゃんと覚えてるし。」
「どんな心境の変化なわけ?」

3人に問いかけられていた空さんは興味なさそうに横目でわたしを見つつ、

「心境変化なんてしてないし。俺はずっとヒツジしか見てなかったもん。」

ツーンとして言う空さんは、口の中のおやつをモゴモゴさせながらそんな返答。

あまりにも空さんだけにしかわからない言葉で放たれた返答には、わたしを含めて誰も理解できなかった。

まるで昔から知ってるような口ぶりだったし、だからってわたしにはそんな記憶もありませんし。

彼女たちからするといつものことなのか、慣れたように「出たよ、空節(そらぶし)。」なんて言ってそれ以上突っ込まないのだ。

聞いてもこちらがほしい答えをくれないとわかっているのだろう。

告白された時の空さんはたくさん喋っていたけど、

本来の空さんはこっちのようだ。

てくてくと歩きながら帰路を辿る中、心配してくれた彼女たちは「あたしたちこっちだから。」と途中で解散となった。

女子会はまた今度しようねと耳元で誘われたのでコクコクと頷き、楽しみだなって見送ったのです。

そんな中、

「やっと邪魔者が消えた。」

空さんがわたしの頭の上にアゴを置いてため息をつくのです。

重いんですけど?と思いつつも見上げながら、

「告白の時の空さんは頑張って話してたってことですか?」
「うん?」
「その…、彼女たちやウサギ先輩への態度と、わたしへの態度が違うので。」

わたしからすると告白された時の空さんが初めてだったので。

強引で、はっきりとした口調で、次の瞬間には脅してきて、コミュニケーションに困ったこととかないんだろうなって思ってた。

人気者でモテモテで、ムードメーカーみたいな人なんだろうって勝手に判断していたから、

「俺だって、必死になる。」

空さんがあんなふうに言われて、本人もそれを否定しない。

ウサギ先輩も扱いに困るような空さん節を当然としているような態度だったから、

わたしにはすごい絡んでくるのに、他の人には結構淡白で口数も少ない姿に新鮮というか、どっちが空さん?と思ったのだ。

でも、

「告白してんのにヒツジは最初から疑うし、怯えるし、泣くし。」
「そりゃ…、何の接点もなかったので…。」
「これでも緊張してたのに。まるっきり信じてくれないとは思わなかった。」
「す、すみません…。」

そればっかりは反論もできません。

だって最初から好かれるなんて思ってない人からの告白でしたので。

「すごく優しくしてるし、怖がらせるつもりもなかったのに。俺の思い通りになってくれないから脅すしかなくなるし。悪循環にも程がある。」
「思考回路がそもそも間違ってます空さん…!」

誰かを思い通りにしようとするほうが間違ってますからね?!

嫌々脅してるんだよ?みたいな言い方しないでいただきたいです!

「でも、最近は楽しい。」
「はい?」
「ヒツジが話してくれるし構ってくれるから。」

相変わらずの無表情が、フッと少しだけ柔らかくなった。

その顔で見下ろされることに、わたしはなんとなく手を伸ばして撫で撫でしていました。

なんだか、気まぐれな野良猫に好かれたような?そんな気分になったから。

それに対して空さんは嫌がることなくわたしの手の感触に目を細めて嬉しそうにする。

最初は怖かったけど、空さんなりにどうにかしようと必死になってから回った結果だと知ると仕方のない人だと思ってしまう。

元々そんなに口がうまいわけじゃないんだろうと今ならわかるから。

さなか、わたしのお腹がぐうっと鳴っていた。

もう夕飯の時間帯だったので、恥ずかしくなって手を引きながら視線を逸らすと、

「なんか食いに行く?」
「え…、」
「お酒はもう飲まさないから。てか、飲まないで。」

ヒツジは飲んじゃダメだ、と空さんは遠い目をするのでハテナが浮かぶものの、

わたしだって記憶のない過ちを経験してしまったのでもう二度と飲まないと決めています!

特に空さんの前では!

「俺ももう少しヒツジと居たいし、食べに行かない?奢るから。」
「お酒抜きなら喜んで。」

もう同じ過ちは繰り返さないと決めているので!

だからって空さんを一概に否定する気もないし、最近の空さんは怖いと思わなくなってきたので。

恋人になった感覚は未だにありませんが、野良猫が懐いてくれたと思うとなんとなく甘やかしてしまう感覚です。

「やった。何食べたい?」
「そうですねえ。空さんは嫌いな食べ物とかあります?」
「キノコ類全般嫌いだし、メロンとかスイカも無理。あとにんじんとピーマンと味の濃いものは全部無理。それから…」

思った以上に好き嫌いが激しかった空さんの嫌いな食べ物を聞いていると、お店選びに苦戦しました。

聞くんじゃなかった!と後悔したのは言うまでもありません。

でも、

「じ、じゃあ!好きな食べ物はなんですか?」

もうこう聞くしかないなと思って聞いていたわたし。

好きな食べ物がわかればお店選びもしやすい
だろうと思ったまでなのですが、

「ヒツジ。」
「はい?」
「ヒツジ。」
「………」

会話にならないどころかとんでもなく恐ろしい返答をいただきました!

「わたしは食べ物じゃありません!」
「……俺はヒツジ、食べられるよ?まるごと全部。残さず綺麗にいつでもどこでも。」
「こわいこわいこわい!!!」

涙が浮かぶような真顔の返答に思わず距離を置いたわたしに、空さんはうーんと唸っていて、

「こわい?」

なんで?と問われることに唖然としてしまう。

空さんは多分、素直に言っているだけで悪気が一切ないのだろう。

先程彼女たちの語る空さんのことを聞いたから判断できることでした。

空さんはただ、

「俺はヒツジが一番好きなだけなのに。」

なんで怖い?と問いかけられると言葉に詰まります。

好意の種類を空さんはわかってないのです。

好きと嫌いはハッキリしているのに、好きと嫌いの種類をまるで把握していない。

食べ物やおもちゃ、趣味など。
好きの中にも種類があるのにそれを全くわかってない。

空さんの好きは、

「ヒツジが一番だって言ってるのに、何で怖いの?」

限りなく純粋な感情なのです。

だからこそ聞かれる内容にはどう返答しようか困惑してしまいました。

でも好き嫌いがはっきりしていて、その種類だけがわかってないなんて子供のようだと思うと、

困惑していた頭はサラッと答えを出せたのです。

「好きだから何でもしていいみたいに聞こえるから怖いんですよ。」
「うん?」
「空さんの中で一番がわたしなら、わたしの嫌なことはしないでほしいです。」
「してるつもりは、ないんだけど…。」

うーん、と頭を悩ませる空さん。
でもちゃんと話を聞いてくれるようになってるので少し進歩ですかね。

「じゃあ今度からわたしが嫌かどうかを確認してから行動するようにしてみませんか?」
「うん?」
「どんなに空さんがわたしのためを思っても、わたしが嫌なら意味ないじゃないですか。」

単純に、相手のことを考えようねってことを具体的に提案しただけですが、

おそらく考えろと言っても空さんはわからないだろうから、あえてわたしから事前に話しをしてほしいと頼んでみたのです。

「そっか。わかった。そういうことか。」

なるほど、と頷いた空さん。

「ウサギやビッチ三姉妹が言ってた意味がやっとわかった。ヒツジの説明が一番わかりやすかった。」

それならできそう、と空さんは言う。

どうやら本当に今まで理解できてなかったらしい。

何も悪いことしてないよ?と真顔で言えてたのはこのせいだろう。

「じゃあヒツジ、手繋いでも嫌じゃない?」
「手、ですか?それくらいなら…」

早速!とばかりに顔を寄せてきた空さんに恐る恐る手を差し伸べると嬉しそうに掴んできたのである。

「よし、じゃあ食べに行こう。ヒツジは何が好き?」
「わたしは好き嫌いとかそんなにないので、何でも食べますけど…。寧ろ空さんの方が嫌いなもの多いですし、なにか食べたいものはないんですか?」
「ヒツジの手料理。」
「……そ、それはお弁当でも作るので明日ということで。」
「え、作ってくれんの?!」

やったー!と空さんは無邪気なものである。

てっきりわたしの家に来ることが目的なのかもと勘ぐってしまったのが恥ずかしいです。

いやでも、前科ありますからね。

「じゃあ肉食べたい。焼肉行こう。」
「あ、いいですね。お肉なんて久しぶりです。」

取り敢えずまあ、空さんとの付き合い方が何となくわかってきた今日この頃。

ただの構ってちゃんで、常識が抜けてる人ではあるけど悪い人じゃないこともわかったし、

最初に比べると周りの助けもあって理由なく怖がることも無くなったものの、

「ていうかさ、俺たちってセックスとかしないの?」
「ぶ…っ!ごほっ…こぼっ…!」

このサラッとデリカシーもなくただただ純粋に疑問なんですと言いたげな顔で、

堂々とトンデモナイ質問するのはかなり心臓に悪いのでやめていただきたい!

空さんとのお付き合い?にはまだまだ…


先が思いやられます(泣)


小噺

生明ゆめの気まぐれ短編集

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