もしも黒猫様が悪女に転生したら6
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「アーティス様!アーティスさまあああっ!!!」
「ジーナ、もう少し落ち着いて入って来れないのか。」
あれから数日。
僕の引きこもり生活はまた平穏を取り戻していた…はずなんだけど、
バタンと入ってきたジーナは茶色い髪を揺らして僕に駆け寄ってきたのだ。
「こ、こ、皇帝陛下がお呼びです!」
「そうか。断ってくれ。」
「はい!わか…っ!えええっ?!断るってなんですか?!皇帝陛下ですよ?!」
「僕に話すことはないからな。話したいなら自分から来いと伝えろ。」
「いやいやいや!不味いですって!それは絶対ダメですよ!」
国の頂点からのお呼び出しを断るなんて聞いたこともないと、ジーナは騒いでいたが、
「いいからそう伝えてこい。」
うるさいので蹴り飛ばして部屋から追い出すと、ジーナは酷いですー!!!と部屋の前でもギャンギャン言っていた。
一部始終を部屋で見ていたセルナンド卿も唖然としているが知らんぷりしておこう。
「べレロフォン嬢、さすがにそれは…。」
「お前まで発言するか、セルナンド卿。」
「そりゃあしますよ。皇帝陛下に呼ばれたのに、お前が来いはあり得ません!」
「知るか。あり得ないことなんてあり得ないだろ。」
行きたくないから行かないだけだ!と僕が言い張ると、セルナンド卿は頭を抱えていた。
「変わっている上にどんなわがままですか…。」
「これのどこがわがままだ。用があるなら自分から来ればいい話だろうが。」
「国のトップにそれが罷り通るとでも?!」
「まかり通すんだ!」
「ああ言えばこう言う…。」
「それはお互い様だ。それに僕は部屋から出ないと約束したんだ。だから出ない。」
「しかもそれ屁理屈です!」
料理と読書の時は普通に出歩いてるじゃないですか!とセルナンド卿は言うが知らんぷりしてやった。
すると数分後、
「へ、陛下がお見えです!」
ジーナの声と共に部屋の扉が開かれたのだ。
これにはセルナンド卿のほうがびっくりしており、従者を連れた陛下が失礼するぞと入ってきた。
勿論僕はベットに寝転がって読書していたが、その姿に「無礼な!挨拶をしろ!」と陛下の護衛が声を荒けてきたのだが、
「どっちが無礼だ。人の部屋にゾロゾロと。セルナンド卿、あいつを追い出せ!」
「し、しかし…!」
「お前は僕の護衛だろう!気に入らないやつが入ってくるなら僕が出ていくが?」
起き上がりながら言えば、陛下がそのものを下がらせていた。
これにはもうジーナとセルナンド卿があわあわしており、面白い百面相だった。
「で?なんの用だ。」
「陛下にそんな口調はいけませんアーティス様!」
ジーナが慌てて僕に近寄ってきたが、
「構わん。茶でも用意してくれぬか。」
「か、かしこまりました!」
陛下のひと声でジーナはぺこーっとお辞儀して出て行った。
権力は素晴らしいな。
僕はベットからおり、ソファに寝転がりながら陛下に視線を向けて座れば?と施していた。
その態度にセルナンド卿が声にならない叫びをあげていたが気にしない気にしない。しないったらしない。
「先日の賭博の件は感謝する。」
「ああ、全くだ。もっと感謝してくれ。」
「べレロフォン嬢!!!」
セルナンド卿はもう言葉にならないのか僕を叱るのも名前を呼ぶだけになっていた。
ボギャブラリー貧困すぎるだろ。
「して、その件で少し困っていてな。」
「現行犯で捕まえたあの仮面野郎が、僕が相手じゃないと何も話さないとか言うのか?」
「知っていたのか?!」
まさしくその通りだと言う反応に、僕はうんざりしてため息をついていた。
「知っていたんじゃなくてあいつの性格から容易く推測できるだけだ。あんな奴でも頭は回るし、理解力のない奴に話しても交渉すらまともにできないだろうと考えるだろう。」
「う、うむ。まさしくその通りだ。」
ジーナがお茶を持ってきてくれ、並べてくれる様を横目に陛下がジッと僕の返答を待っていた。
「まあ、行っても構わないが…。」
「が?」
「おそらくあいつの要求は僕だぞ。」
「は?どういうことだ。」
「だから、欲しがるものは僕だと言ってるんだ。」
なんでここまで言わないとわからんのだ。
全く、と思いながら言えば陛下もそうだがセルナンド卿もジーナも目を丸くしていた。
「どうしてそう言い切れる。」
「交渉がしたいと言うなら交渉に有益な情報を持ってるということだ。つまり、国を脅かすような情報だ。」
見逃してくれないならこうするぞというような、と伝えると
「だからなんでわかる?!」
「逆になんでわからないんだよ!これだけ目立った行動をしていたんだぞ?!寧ろ捕まったほうがラクに勧められるプランとしても活用していたに決まってんだろうが!」
「……なるほど。」
「お前馬鹿なのか?!馬鹿なんだろ!」
「陛下に向かってそのような暴言はだめですよアーティス様!」
お願いだからやめてください!とジーナに言われるが、陛下は構わないからとジーナを宥めていた。
「して、何故それでお前を欲しがることに繋がるのだ。」
「今回のことで僕が見せたのはイカサマだけじゃない。報告されたんだろう?」
「嘘を見抜ける、というやつか?」
「それもそうだが、そうじゃなくて。国を人質にとれるぞと言ったんだよ。何聞いてたんだ。」
「それがなんだと言うのだ。」
「本当にわからないのか?!」
それこそびっくりだわ!と思って起き上がり、僕はジーナの淹れたお茶なら飲めるようになったので口につけていた。
「わずかな情報からあいつの目的の大半を言い当てたんだ。あいつは自分の能力では限界のあるものを探してるんだと思う。」
「……そんなこと、どうしてわかるんだ。そんなのは憶測だろう?」
「じゃあ賭けるか?僕は自分の推測に国家予算全額賭けられるぞ。」
「すまん、続けてくれ。」
ケロリと言えば、顔を青ざめさせた陛下がこれ以上効きませんと手のひらをひっくり返した。
「あいつはな、情報収集には長けているがその使い方は乏しいんだよ。今回のこの騒動も、わざと悪目立ちしたのもそのためだ。情報を撒き散らしながら、噂の集まる賭博という場所で人材を探していたに過ぎない。」
「………な」
「なんでわかるんだはもう聞かないからな。」
「…………うむ、続けてくれ。」
「今回交渉に応じるとしたら必ず僕の能力を欲しがるだろう。国の転覆と僕ひとり、どちらを選ぶか。そんな選択を迫られるはずだ。」
「…ど、」
「どうしてわかるんだも聞かない。」
「…………」
ちょっとはお前も頭使えよな?!と思いつつも僕は続けていた。
「それに協力してやることは容易いが、僕は極力部屋から出たくない。ダラダラしていたい。わかるか?仕事をするなんてことは一度も言ってない。どうしてこうなったんだろうなジーナ?」
「ひえっ。すみません…っ。」
でもその才能は使わないともったいないですよ!とジーナが言ってくるので、
「自分の才能の使い場所くらい自分で決める。」
そう言い切ると、ジーナはシュンとしていた。
これには陛下がまあまあとその場を宥めつつ僕を見るのだ。
「なにが欲しい?交換条件と言いたいのだろう?」
「まあ、そうだな。でも欲しいものがあるわけじゃない。あの男を僕の好きにさせてほしい。」
「どういうことだ?」
「言葉通りだ。」
ニヒルに笑えば皇帝陛下は勿論、ジーナとセルナンド卿まで悪い顔してる!と言いたげな表情だったが、
許してくれないなら何もしないと言えば仕方なさそうに頷いてくれた。
「だが、国に害をなすようなことなら…」
「そんなことしない。興味ないって言ってるだろう。まったく。」
独裁者になる気も、恐怖政治を行う気もない。
僕は再び寝転がりながら伸びをしていた。
そんな姿に陛下はやれやれと目を細めて僕を見つめてくるのだ。
「本当にあのアーティスなのかと今でも目を疑う姿だな。」
「そうか?偽善者ぶる気はないが悪役を気取る気ももうないってだけだがな。」
「ははっ、そうか。」
陛下は最初こそ僕をかなり警戒していたと言うのに、今ではこんな態度も許してくれる。
僕はアーティスだけど、小説のアーティスになる気はないからなあ。
「セルナンド卿もそろそろ僕の護衛なんて外してやればどうだ?一日中ぐうたらしてる僕の姿を見るだけなんて、それこそあいつの才能を無駄遣いしてるだろう?」
なあ?とセルナンド卿に視線を向けると、
「いえ、私はこのままべレロフォン嬢についています。」
「なんでだよ。騎士がこんなぐうたらな部屋で一日中いるのはおかしいだろ?もっと護衛が必要な人間がいるだろう?」
「ある意味、誰がべレロフォン嬢の護衛をしても腰を抜かすと思いますが…。」
「なんだと!」
「私はその点、慣れてきましたのでお気になさらず。」
「すごい失礼な断り方したな?!」
僕が飛び起きて噛み付くように言えば、それを見ていた陛下とジーナがクスクスと笑っていた。
どこに笑う要素があった?!
「それよりべレロフォン嬢。裸足でペタペタ歩かないでください。部屋靴くらい履いてはいかがでしょうか?」
「履かない。概ねベットで過ごしてるのにそんなものは必要ない!」
「まったく…。じゃあせめて令嬢らしい格好をしたらどうですか?髪もといたほうがよろしいかと。」
「あーもう!お前は最近口うるさいんだよ!護衛変えてくれ!」
皇帝陛下に向かってセルナンド卿を指差しながら言えば、
「人を指差してはいけません。」
セルナンド卿の小言はまだ続いていた。
「お前は僕の粗探しが趣味なのか?!」
「まさか。粗しかないので目に余るだけです。」
「この部屋にはお前と僕以外ほとんどいないんだぞ?!プライベートに何しようが勝手だろうが!」
「では皇帝陛下の前でくらい正装されては?」
「しない!!!僕のテリトリーだぞ!僕が決めるんだ!僕の場合は誰が会いにこようがずっとプライベートなんだ!!!」
「子供じゃあるまいに…。」
「ため息つきやがったぞこいつ!セルナンド卿こそ僕の扱いが令嬢向けの態度じゃない!」
「令嬢として扱って欲しいならそれ相応の振る舞いをしていただきたい。」
「即刻こいつクビにしてくれ!!!!」
もう決めた!と僕が言い張ると、セルナンド卿は失礼しますと言って僕を抱き上げるのだ。
「なんでいきなり持ち上げるんだ!下ろせよ!僕に触るな!!!!」
ゾワッとするのを久しぶりに感じて暴れると、セルナンド卿はこっそりと僕にしか聞こえない声でひとこと。
「やっぱり、べレロフォン嬢は他人に触れられるのを好まないようですね?」
…と、言うのだ。
近くで見てきたからなのか、確信めいたものがあったらしい。
ムッとする僕に、セルナンド卿は見たこともない満面の笑みでひとこと。
「降ろして欲しければクビを撤回してください。」
「それは脅しって言うんだぞ?!」
「そうですね。」
なんて奴だ!
なんなんだこいつ!
つい最近まで無害だったのになんか最近鬱陶しい!!!!
しかも僕を脅すとはいい度胸してやがる!!!!
「僕を一日中抱っこして突っ立ってるつもりか?!ああ?!そんなことできるわけ…!」
「できますが?」
「……………。」
そうだな。そうだよな。
鍛え抜かれた騎士だもんなお前。
一応、国に数人もいない自由騎士というかなりの身分だもんな。
僕は諦めてわかったよ、と呟いていたのだ。
そのひとことでそっと下ろしてくれたセルナンド卿の足を蹴ってやったが何食わぬ顔で「なにかしましたか?」と言われるので余計ムカついた。
「なんなんだよこいつ!最近すごい馴れ馴れしいんだけど?!」
「セルナンド卿もアーティスを認めたのだろう。」
ほっほっ、と笑う皇帝陛下はまるで愛娘でも見るような視線だ。クソ気持ち悪い!
ジーナに至ってはなんて微笑ましいの!と言いたげな顔である。ふざけんな!
僕はイライラしつつも触られた感触が気持ち悪くなってきて、
「風呂入るから今日は帰ってくれ。明日、交渉に応じる。」
「風呂?こんな時間にか?」
「いつ入ろうがいいだろ!早く帰れよ!」
気が立っていた僕に、前ほど恐る感情もなければ警戒心もなく、皇帝陛下は「野良猫みたいだな。」とか言っていた。
背中蹴っ飛ばすぞ?!と叫ぶと手をぶらぶら振りながらまた明日な、と言って出たのだ。
ジーナもその見送りと、お茶の片付けをしてくれており、
僕は即刻浴室へと駆け込んでいた。
その背後では、
「そんなにですか?そんなに触られるの嫌なんですね。」
「当たり前だ!!!気持ち悪いんだよ!どうしても無理なんだ!!!」
セルナンド卿がまじまじと僕の様子を見ながら、
「ですがジーナは平気なんですね。」
「平気?どこがだよ。」
「ジーナの淹れたお茶は飲みますよね?お茶菓子も食べますし。」
「慣れただけだ。」
ジーナは僕が断ることもお構いなしに、色々用意して持ってくるメイドだったからな。
あんまりにもしつこいからちまちま口に含んでいたら慣れたのだ。
「じゃあ、触るのも慣れれば問題ないってことですね。」
「そんなわけあるか!絶対触るな!!!毎日何回風呂に入らなきゃならんのだ!!!!」
「お湯が勿体無いので早く慣れましょうね。」
「意味が全然違う!!!」
人の話し聞いてたか?!!!と僕が叫ぶことすらセルナンド卿はふっと笑い飛ばすだけなのだ。
こいつ絶対いつかクビにしてやる!!!!
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