もしも黒猫様が悪女に転生したら4
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朝から晩までずーっとダラダラ引きこもり生活を始めて一ヶ月近く。
公爵に頼んで持って来てもらったチェスもあるし快適だ。
何故かお菓子も大量に送られて来たのでメイドたちにあげた。
それに最近では図書室の出入りが許されて、そこに引きこもっている。
歴史書から魔法書、小説に伝記など。
ありとあらゆるものを読み耽りながら1日が終わるなんて最高だ。
誰に何を言われるでもなく、好きなことを好きなだけできるんだからな!
でもまあそろそろ、魔法の練習くらいはしておこうと思って今日は部屋に居た。
魔法書は結構読んで仕組みは理解してるし、アーティスの記憶もあるから難しいことはない。
簡単な魔力弾を手のひらに浮かべてみて、属性を付与すると火の玉になるし、水の玉にもなった。
魔法を使うものは属性に囚われることはないが、相性の良い属性はあるらしい。
ただ生まれつき宝石眼をもつ魔力の高いアーティスやその他の継承権を持つ皇族は属性なんてあってもなくても関係ない。
アーティスの身体はまさしく様々な魔法が使えて試してみるのは結構楽しかった。
ふよふよと浮かぶ魔力を部屋全体に撒き散らし、部屋を暗くするとミニプラネタリウムの完成だ。
星座の形に魔力を配置していき、眺めるのも楽しい。
そんな僕の行動を常日頃から部屋の傍に控えて見ているセルナンド卿も目を瞬いていた。
「この魔法は、なんですか?」
夜空ができてる?!と言いたげな問いかけに僕はクスクスと笑っていた。
「簡単に魔力を散らして星の位置と同じ箇所に留めてるだけさ。害はない。」
綺麗だろ?と言ってしばらく眺めて楽しむ僕に、セルナンド卿は「はい。」とひと言だけ。
僕を警戒していた男はここ最近、そこまで敵意もなく静かにそばにいるだけだった。
取り敢えず、魔法の練習は上々だ。
まあ使うことなんてないだろうけど、身を守る術くらいは身につけておきたいしな。
それもこうして色々できるとわかっただけでも充分である。
ミニプラネタリウムを散らして、部屋の明かりを付け直した僕は平和な時間をのんびり過ごしていた。
そんな中、
「アーティス様。今日の新聞をお持ちしました!」
メイドが入ってきて日課のように僕に手渡してくれる新聞を受け取ったのだ。
「ありがとう。」
それを開いて読んでいれば、メイドは立ち去るわけでもなく不思議そうに問いかけてくる。
「毎日読まれていますがそんなに面白いですか?」
「うん?面白くて読むものじゃないだろう?世情を知っておくことは必要だと思うんだが?」
だってここにはテレビもないし、部屋から出るわけにもいかない僕が世情を知るためには新聞を読むしかない。
「そう、ですか?お城の中は安全ですよ?」
「今はな。でもそうじゃなくなる日も来るかもしれないだろう?」
「よくわかりません。」
「ふむ。」
僕専属として配属されたこのメイド。
近頃は気さくにいろんな質問をしてくる。
別に大した質問じゃないから答えていたが、好奇心旺盛なのか様々な質問をされるようになった。
あと名前はジーナっていうらしいことを最近知った。
「安全というのを過信してはいけないってことさ。どこが安全でどこが危険な場所になるかは世情と民衆によるからな。」
「お城も、ですか?」
「誰が誰に、どんな不満を持ってどんな行動をするのかは定かじゃないだろう?城にいるからって、城の中のものが全員真っ当なわけでもない。罪のない人間なんていないんだから。」
僕が教えてやるとなるほど、とジーナは僕の目の前で学んでいく。
なんか、物を知らない生徒でも持った気分だ。
「じゃあアーティス様はできるだけ世情の動きを把握していつでも逃げられるようにしているってことですか?」
「まあそれも一理あるが。どこでどんな事件が起きて、今は何が流行なのかを知っていれば、自ずとこの城に訪れる者もわかるからな。」
「はい?」
「例えば…。」
僕は積み重ねている日々の新聞からひとつを抜き出して広げてみせた。
「隣国の女王陛下は北国との交流で毛皮を大量に買ったという事実がある。」
「はい。」
「では今後流行る女性のファッションは毛皮だろうなと推測できるだろう?なにしろ国のトップが気に入って買ってきたものだ。毛皮は匂いもしないし保管も簡単。ファッションとしても華やかさを演出できる。つまり、ここに目をつければ商才のあるものは我先にと毛皮の流通を確保しようとする。」
「な、なるほど!!!」
たしかに最近、貴族の間では毛皮が流行っていると聞きました!とジーナは言った。
秋口の今の季節だから、使うにもちょうどいい季節だしな。
ここに目をつけた奴は、がっぽり稼いでいることだろう。
公爵にコッソリ手紙を書いて教えてやったから、今頃ウハウハなんじゃなかろうか?
「じゃあアーティス様!最近下町で起こっている事件もご存知ですか?!」
「ああ…、賭博場のことか?」
「知ってたんですか?!」
「新聞に載ってるしな。」
どうやら最近、賭博場で荒稼ぎする奴がいるらしい。
イカサマをしているのは確実だと書かれているが証拠もなく、様々な賭博場で勝ちまくっているためか、
経営ができず資金難で賭博場が潰れていっているのだ。
このままだとおそらく違法賭博にも手を出すだろうし、賭博を所持する貴族連中も破産していっている。
放っておくと、国としても大損害だろう。
なにせ税金を納める貴族が減るってことは、国を納める資金難にも繋がるしな。
「セルナンド卿は何か知っていますか?この事件のこと。」
「…陛下が頭を抱えている問題だということくらいは。」
ジーナの問いかけに当たり障りなく返答するセルナンド卿。
まあ荒稼ぎする奴を証拠もなく捕まえることはできないし、だからって放っておくこともできない。
八方塞がりの状態だろうことは簡単に推測できる。
「アーティス様はこの事件、どう思われますか?」
「どうって…。八方塞がりだからって立ち往生していたら皇帝の信頼も失うだろうし、国の予算も厳しくなるだろうから、僕ならとっととこの国を捨てて別の国に行くな。」
「えええっ?!そんなに大変なことなんですか?!」
ジーナは頭が足りなさすぎるな。
普通に考えたらわかることだ。
「そもそも賭博の経営はキリのいいところでやめないと泥沼だからな。欲を出せばそれだけツケが回ってくるものだ。」
「この犯人は一体何がしたいんでしょうね。」
「犯人、というのは少し違うだろう?イカサマをしてる証拠もないのに。」
「でも全勝して勝ち逃げですよ?!何かあるに決まってます!」
「そりゃそうだろうが、騙される方が悪いんだよ。」
ケロリと言って新聞を元の位置に戻す僕に、セルナンド卿がピクリと反応したのが見えた。
まったく、これだから騎士道とかもってる真っ直ぐな人間って理解し難い。
「そんな薄情な〜っ!騙す方にも問題はありますよ!」
「それも理解できる。…が、結局出し抜かれたほうが負けなんだよ。」
「アーティス様冷たいです!」
「至極当然の理屈しか言ってないだろう?勝ちたいならそいつの一番欲しい物を知ることだ。」
「え?どういうことですか?」
「こいつは金目当てのように見えるがそうじゃない。ここまで荒稼ぎしておきながら未だに続けているんだ。本当に金が目的ならここまで悪目立ちするのは避けるだろう?」
一定の額を色んなところで稼いで僕ならトンズラする。
イカサマだなんだと騒がれる方が金目的の場合は邪魔になるだけだ。
「じゃあなんで…?」
「目当ては貴族だろうな。」
「貴族?」
「ああ。貴族に恨みがあるのかなんなのか。破産していく貴族連中の中にまだ標的が居ないから続けてる可能性の方が大きい。」
僕の推察にジーナの背後で控えるセルナンド卿も耳を傾けていた。
「じゃあ標的を見つけたら…?」
「さあ?そこまではなんとも。目的が貴族なのはわかるが、何をどうしたいかまでは現場に行かないとわからん。」
「え、行けばわかるんですか?!」
「僕を相手にイカサマできるならやってみるがいいさ。こいつは中々頭も切れるようだが、悪目立ちしすぎだ。どうせ今晩もどこに現れるかくらいなら調査してる連中だって知ってるはず。」
自分が何者なのか暴かれたっていいと思っている。
だって証拠は絶対に出ないから。
「僕ならこいつに勝てるだろう。ゲームで負けたことはないからな。」
その場で現行犯逮捕で終わりだ、と話すと何故かジーナが…
「わかりました!その旨!早速陛下に伝えてきます!!!」
「え、」
「セルナンド卿!行きますよ!!!」
「ちょ…!」
僕が引き止める前にジーナがいってしまった。
なんか物凄く嫌な予感がする。
まさか本当に賭博場に行かせるわけないよな?
だって僕、軟禁中なんだぞ?
そんな簡単に外出の許可出したりしないよな???
そんなことを思いながらそわそわして過ごしていれば、数時間後にジーナとセルナンド卿が現れて、
「支度してくださいアーティス様!」
僕の不安は見事的中したのだった。
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